プロローグ

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平成十二年 晩秋 大阪南部、堺市から羽曳野市、藤井寺市と東西に広がる一帯に五十基弱の古墳群からなる古代の陵墓遺跡がある。大きく分けて仁徳天皇陵のある百舌鳥地区、応神天皇陵のある古市地区から成っているんだけど、その中間あたりにぽつんとあるのが黒姫山古墳というところ。 他のと同じ前方後円墳のかたちで造られていて、大きさも中規模なんだけど、この墓に眠っているのはこの辺りを治めていた豪族であり、歴代天皇家ではないとされている。従って宮内庁の管理管轄外となり、堺市が景観保存に務めている。 市は市民集いの広場、そして歴史観光の視点から古墳の隣に「堺市みはら歴史博物館」という建物と「史跡黒姫山古墳歴史の広場」を設けた。これはほどほどに人集めに成功し、昼間はそこそこ賑わっているみたいだけど、まわりが畑のため夜は不気味な闇と静けさが一帯を覆っていたりする。 さて。秋も深まって北からの風が冷たいある日の夜遅く、黒姫山古墳歴史の広場に数人の男子中学生の姿があった。 輪を囲み、つまらない話しをつまらなそうに話し合っている、そこに自転車を引っ張りながらもう一人が加わった。 「おー、今日はしっかり時間通りに来たやないかい」 と声をかけたのは虐めグループのリーダー阿部君だ。 呼び出されたのは背が低くて気の弱そうな篠山ミチオ君、皆同じクラスメートになる。可哀想に半年前に阿部君に目をつけられ、ズルズルと金銭をむしりとられていたんだ。 ミチオ君は阿部君とそのまわりの和田君、大植君、柿本君の顔に卑屈な笑顔を向けた。 「あのぉ、財布見つからなくて」 「ふーん」と阿部君。「そりゃこんだけ盗まれてたら、いくらおめえの腐れババアでも隠し場所変えるわな」 「今日はお父さんも起きてるから、部屋に入れないねん」 ミチオは再び卑屈に笑った。
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