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「え? それは無理だよ」  僕がそう言うと電話越しに「えー」と嘆く井上陽菜(いのうえひな)の声が聞こえた。  明日の夜に花火を観に行こうという電話だった。  しかし、僕は夜八時まで夏期講習の特別講義が入っていた。この特別講義をすっぽかすことはできなかった。 『それは……私と花火は見たくないってこと?』 「そんなこと言ってないよ。ただ、明日は特別講義で……」 『はいはい。わかりました。お勉強が大切ってことだよね」 「あーもう……、わかった、なんとか早く行けるようにするから。少し早く出て電車に乗れば……花火までには行けるかも?」 『やった!』  急に陽菜の声が弾んだことがわかった。  まんまと彼女に乗せられてしまっているような気はしたけれど、好きになってしまった弱み、ここは僕が合わせるしかない。  電話を切ってから僕は夏期講習用のテキストに目を移した。こんな物理の問題を解くことよりも、陽菜とうまくやっていくことは本当に難しい。  それでも僕は陽菜が大好きだ。
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