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半年ほど過ぎて、大学生活にも慣れてきた。しかし、そんな頃から陽菜の情緒が不安定になりはじめた。
キャンパスを歩いていると、同じクラスの中里陽香が話しかけてきた。
「澤村くん、今日、クラスの何人かでゴハン食べにいくんだけどどう?」
「あ……」
僕がどう答えるか戸惑っていると、陽菜は鬼の形相で中里さんの背後から頭を殴っていた。
しかし、生き物に触れることができない陽菜の拳は何度振りかざそうとも、中里さんを擦り抜けるだけだった。
「……どうか、した?」
中里さんは少したじろぎ気味に尋ねた。僕が戸惑っている理由など説明のしようがなく、僕は丁重に誘いを断り、アパートへと帰った。
その帰り道の間も、
「中里って絶対に佑に気があると思うんだよね」
「いつも声かけてくるし、うざい」
「意味もなく佑の肩に手を置くじゃん? あれ、わざとだよ」
と陽菜は、ずっと中里さんへの文句を言っていた。
「佑もさー、実は中里のことイイかもとか思ったりしてない?」
もう何度聞かれたかわからない問いに僕は「そんなはずないだろ」といつものように返した。
「いっつもそんな感じだよね。淡々と素っ気ない。私がなんで怒ってるかわかってる? 私のこと考えてくれてる? 私だけこんな不自由な思いしてるんだよ?」
「私だけ?」
思わず僕は声にしてしまった。少し陽菜を睨んでしまったかもしれない。陽菜は怯むことはなかった。
「なに? あ、そっか。佑だって不自由だって思ってるんだ? そうだよね? 佑だって大学生活を満喫したいのに、いつもコブ付きみたいなのがいたら自由になれないもんね? ヤることもできない女と一緒にいたって不満が溜まるだけだよね? だーから素っ気ないんだ?」
「そんなこと言ってないだろ」
「言ってないよ。でも佑はいま『私だけぇ?』って私を睨んだじゃない。不満がすっごく伝わった! はいはい、私は重荷ですよね。邪魔な存在ですよねー」
「なんでも勝手に決めつけるなよ! オレだっていろんなこと考えてるんだ! これからどうしていくことがいいんだろうっていつも考えてるよ! こんな生活、誰にも相談できないだろ? 陽菜にはオレしかいないだろ! オレしか陽菜に気づくことできないだろ!」
思わず僕は声を荒げた。胸の奥から湧き上がった感情が言葉になって出てしまった。
陽菜はキッと僕を睨んだ。
「なにその上から目線! ああ、そう。誰も面倒みてくれなんて言ってないよ。もういいよ! 佑なんかの前から私は消えるよ!」
陽菜は大きな声で叫ぶと、陽菜はドアのほうへと走り出した。僕は追いかけようとしたが、ドアを擦り抜けた陽菜を捕まえることはできなかった。
「なんなんだよ……」
僕は玄関の前に座り込んだ。
なんだか頭が痛かった。
それは気のせいなどではなく、その晩、僕は高熱を出して寝込んでしまった。
陽菜は帰ってこなかった。
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