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「死んじゃったって……なんで?」  僕はどんな質問がいいか少し考えたが、いい質問など何も思いつかなかったので、ストレートに聞いてみた。  陽菜は腕組みをして目を閉じた。 「なんだろう……わからない。思い出せない。美容院に行って、夕方に真衣(まい)とお茶して……七時前に、花火会場に向かったんだよ。佑と花火に行くんだって言ったら真衣に『いいなー、私も彼氏欲しい』とか言ってて……」  前置きが長く、なかなか本筋に入らない、陽菜の話によくあることだ。  僕は自分に「慌てるな、焦るな」と言い聞かせた。まず話を最後まで聞かなければいけない。 「ダメだ! 思い出せない。そこら辺から記憶がなくなる。コンビニ出たところから何も思い出せない!」  コンビニの話なんてしてなかっただろう、とは突っ込まない。たぶん、いつもみたいにお茶のペットボトルでも買ったのだろう。 「気づいたら、もう人がガラガラの噴水広場にいたの。あ、花火終わってるじゃん、ヤバイ、佑に謝らなきゃって思って、佑ん家に行こうって思ったの。なんでかスマホもなかったし」  そういえば手荷物がない、と僕は思った。 「どうやってここまで来たんだよ」 「うーん、電車に乗って、あ、改札口は素通りできたんだ。で、三郷駅で降りて、ここまで歩いてきた。玄関は……擦り抜けられた」  だからウチの親にも会わず、この部屋にこれたってことか。  筋は通っている。  いや、肝心なことは何もわからない、そんなことを思っているときスマホが鳴った。  「榊真衣(さかきまい)」と表示されていた。 「出るよ?」  一応、目の前にいる陽菜に断りを入れると、陽菜は頷いた。陽菜の前でほかの女子からの電話に出ることは少し気まずい。 「もしもし」  と電話に出ると、その向こうから、ひっくひっくと榊の嗚咽が聞こえた。 『陽菜が、陽菜がぁ』  名前以外、何を言っているかはわからなかったが、この時、僕は確信した。陽菜はやはり死んでいるのだろうと。  僕がゆっくりと陽菜へ視線を移すと、  陽菜は「真衣は、私のために泣いてくれる子だったんだね」と薄い笑顔を浮かべて言った。
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