18人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
1
「え? それは無理だよ」
僕がそう言うと電話越しに「えー」と嘆く井上陽菜の声が聞こえた。
明日の夜に花火を観に行こうという電話だった。
しかし、僕は夜八時まで夏期講習の特別講義が入っていた。この特別講義をすっぽかすことはできなかった。
『それは……私と花火は見たくないってこと?』
「そんなこと言ってないよ。ただ、明日は特別講義で……」
『はいはい。わかりました。お勉強が大切ってことだよね」
「あーもう……、わかった、なんとか早く行けるようにするから。少し早く出て電車に乗れば……花火までには行けるかも?」
『やった!』
急に陽菜の声が弾んだことがわかった。
まんまと彼女に乗せられてしまっているような気はしたけれど、好きになってしまった弱み、ここは僕が合わせるしかない。
電話を切ってから僕は夏期講習用のテキストに目を移した。こんな物理の問題を解くことよりも、陽菜とうまくやっていくことは本当に難しい。
それでも僕は陽菜が大好きだ。
最初のコメントを投稿しよう!