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息が、出来ない。
塞がれた鼻と口は酸素を欲していたが、昌也はそれを許さない。苦しそうに歪む顔を見下ろす目は冷ややかで、心臓が掴まれるような感覚に陥る。
肺が膨らみたがってきゅうきゅうと音を立てる。全身の末端が痺れているような気がする。
尾骶骨の下のあたりに異物が入った。おそらくそれは昌也の中指で、ぐりぐりと動かされるたびに身体が跳ねる。
「起きろ、腰上げろ。」
昌也が一本指をぐるりと回すように指示する。
ロムは名残惜しそうにその目を見ながら、後ろ向きに四つん這いになって腰を上げた。
はぁ、はぁ、と息を切らす声を背中で聴いて、全身が悶えるような興奮を覚える。すべての聴覚が、背後の男の動きを知ろうとしている。
覆いかぶさるように体温を感じると同時に、回された手で自分のモノが掴まれた。
「……ぁ……。……っ!」
直後、左肩に強烈な痛みが走る。歯を立てて噛まれたと気付く前に反射的に背中を丸めたが、それを許さないように性器側の窮屈感が増し、押し戻された背中はさらに爪痕が付けられたようだった。
痛い。ものすごく。
それなのに、それはすべて震えに、快感に、変わっていく。
後頭部側の脳のあたりが膨張して、血液がどくどくと延髄に快楽物質を運んでいるのがわかる。
何度も指を出し入れされて緩んだ場所に、やがてもっと大きい異物が入った。
呻く暇もなく打ち付けられ始めた動作に、腰が砕けそうになる。
「こっち、向けよ。ロム」
散々好きにされた後に正面を向き直すと、昌也は上気した顔で汗を浮かべながら、何故か切迫したようにロムを見つめた。
戸惑う間もなく再度挿れられる感覚がする。
慣れた痛みの中に、苦しいような感情が新たに芽生え始めた。
ダメだ、ヤバい。ヤバい。
ロムは腰を振る昌也の首元に腕を伸ばして、その目を見つめた。奥の奥まで、見つめた。
この人を、忘れたくない。
これから先ほかの何を忘れたとしても。
この想いが、一方通行だとしても。
身体を起こしながら、昌也の唇に噛みつくようにキスをした。直前に昌也の目が見開いたが、止める気はしなかった。
舌を差しいれて中を舐め回すうちに、追いかけて舌が絡んでくる。吸い込まれるような甘い快楽の感触が、時間を止めていく。
嫌がられるかどうかなんて気にもならない。昌也が自分を必要かどうかも、ロムにはどうだって良かった。これは決して、恋では無いはずだ。
自分の身体の中でさらに膨らんだ昌也の一部が延々と痛覚を刺激してくる度に、人格が輪郭を帯びていくように感じる。
あんたに、抱かれて、俺は、生きられる。
「…………あり、が……と」
「黙れ。犯すぞ。」
「……いまがそれ、なん、じゃないの。」
次に息ができなくなったのは、昌也がもう一度ロムの唇をキスで塞いだから。
「ん、ん、………んんん、!!」
低いうめき声とベッドの軋む音は剣呑で、階下のライブハウスにもきっと届くだろうと、願った。
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