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「で?これは何の騒ぎなんだよ。リッタ。」
あれから数日後の夜、昌也は再びあの夢の中にいた。
以前から同じ夢を見ていたはずだが、あの日以来記憶が鮮明になっている。
今日に至ってはほぼ前回と同じ位置、同じ持ち物が再現されていて、いよいよ本当に身体を動かしているような気になる。
夢以外の可能性を考えなくもなかったが、昌也にとってそれはどうでも良いことだった。元来、現実主義であるし、夢の方から起きてる世界線に影響が無い以上、この世界で何があろうが興味が無い。もしこれが未来を暗示しているような景色であったとしても、自分にとって背負う必要のない世界という意味では、夢と同じだと。
しかし慣れた手際で同じようにバッテリーを盗みに行く道中で、とてつもなく長い一列の行列に足止めを食らって、思わずリッタに問いかけた。
街路樹に身を隠しながらその牛のような歩みを眺める。
「だから、月に一度の合同葬儀ですよ。」
「葬儀?誰の。」
「……あの、列に並んでいる人達の、です。」
その言葉を聞いて、背筋が一気にぞわりと冷えた。
そうだ、リッタは以前、集中葬儀場があると言った。望めばいつでも死ねるのだと。それが列になっているのだから、葬列だと思いついても良いはずだった。それなのにそう思わなかったのは、その自然さだった。
行列は、よく見れば本当に、健康体なアンドロイドの列でしかない。服装や年格好の平均値はやや高齢なようにも思うが、五体満足で背筋もしゃんとしている老若男女だ。居住区で道を歩いて生活をしている人達となにも変わらない。
下を向くこともなく、嘆くこともなく、まるでポップコーンの出来上がりを待つような風にして、列の先を時折気にしながらゆっくり列を進んでいる。
「あいつら何で、あんな平然とした顔してんだよ?」
「……死ねるから、じゃないですか」
「ああ!?」
訳がわからない。わからないのに当たり前のように言うリッタにも苛立ち、昌也は思わず本気の覇気で声を荒げた。
「……おかしいだろ!こんな……」
……こんな?
死ぬことが?それが合法なことが?月に一回なことが?
みな、自由に死期を選べぶことができる。自分の意志で、好きに。
世界が終わる不安も、自分の身体が病理に侵される不安も無い。楽しみはないけれど、目立った不公平も無い。
それが居住区。
昌也は、自分が廃棄物である理由をすっかり理解して、言葉を飲み込んだ。
「………上等だっての。」
ギリリと掴んだバイクのハンドルからは、古いゴムの匂いがした。
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