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昌也はテンペストの廃墟に戻ると、地下に降りておもむろに中央の床の砂をバサバサと足ではたいた。
「どうしたんですか!ねえ、バッテリー、みんなに配って……」
「リッタが勝手にやれよ」
実際、昌也が世話をしてやっているのは9体のアンドロイドだった。どれも5歳〜15歳程度の少年少女で、彼らは皆どこか欠損していた。足や、手が一部足りない。それでもバッテリーさえあれば稼働は出来るから、めいめい歩いて昌也の近くにこうして集まって来る。
親がいないのだろうとは思う。しかしそれだけが廃棄物になる理由だとは思えず、実は中に入っている人格が見た目のとおりの年齢なのかもよくわからない。
それでも、話せば最低限の会話はする。居住区の住民のようにのんべんだらりとしておらず、笑ったり冗談を言ったり出来る。だから昌也は、それなりに役割をまっとうしている。
ただし、他にやることがあるときは別だ。
「……あった。」
何度か場所を変えて砂を散らすと、やがて見慣れた四角い切れ目が現れた。上に立つと、ちょうど大人一人が抜けられる程度の枠組み。
昌也は縁に手をかけて金具を指で掘り起こし、床ごと思い切り上に引き上げた。
「開いた……!!」
「なんですかこれ!!初めて見ましたぁ!」
「……入ってくんなよ。」
「え、ええ……見たいのにぃ……」
「ダメだ。これは俺の秘密基地だから。死ぬほどエロいからお子様には早ええよ。」
そう言って、指をくわえるリッタを尻目に、暗闇に浮かび上がった地下に続く階段を躊躇なく降りていった。
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いつもの通り手探りでスイッチを探す。すると不思議なことに、ちゃんと明かりがついた。
多少は埃っぽいものの、現実とほとんどかわらない様子に安堵する。この夢を見始めてから、初めて自分の居場所に戻ってきた気分だった。
地下室は、階段を除いて六畳一間ほどの空間が形成されている。ここはライブハウスの地下にあたる場所で、従業員にも知らせていない昌也だけの場所だ。
一面には背丈ほどのスピーカーが2本立てられており、真ん中にはターンテーブルがある。そしてそれ以外の2面の壁棚にびっしりと、レコードが保管されている。
「……結局この世界にも、最初から音楽が無かったわけじゃないって設定だな。」
数枚のレコードを見繕って引き出すが、そのどれもが記憶しているジャケットと寸分違わない。多少は退色や劣化が目立つが朽ちるほどではなく、ますますこの廃墟での時間の経過がわからなくなった。
一枚取り出して白い紙の袋を取り払い、真っ黒なレコードをターンテーブルに乗せて針を落とす。
期待を込めてスイッチを押す。
「……やっ……た?」
おもむろに回り始めたレコードはしかし、スピーカーから音を出してはくれなかった。
「……クソっ。おい、ロム直ってねぇ……」
そう口にして、昌也は口を塞いだ。
ロムは、いない。いや、いる。現実には。
……でも、この世界には?
昌也はじっとりとした不安を抱えて、無音のまま回り続けるレコードを見つめた。
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