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いま思えば最初から、ロムは常連の客とも友人とも呼べない、不思議な存在だった。
「やっば。この音響でこの曲はずるいわ。」
「だろ?さすがに地下室でここまで重低音出して聴けるとやばい。」
自分でもどうしたんだろうと思う。
対外的には"やり手の男"であって、こんな高校生に戻ったようなのどかな会話を、夜な夜な地下室でする羽目になるとは思わなかった。
ロムがライブハウスに現れて、ライブが終わると昌也が地下室に誘う。そんなことが続いた何度目かの夜、昌也はいささか酔っていた。
突然の客に酒を飲まされて、不可抗力だった。酒は弱くは無いが、招かれざる客と飲む酒は不味い。
飲み直す気持ちで酒瓶を持ち込んだままいつもの通りの会話をロムと繰り広げていると、妙な気持ちが起きてきた。
「やっぱさぁ、インディーズのバンドの良さもあるけど、神バンドの神演奏を生で聴くのはヤバいよなぁ。レコードだけでこんなヤバいんだから、いつか生も聴きたい。」
「それな、わかる。」
ラブソファはもともと1.5人用のような大きさで、そこに二人で座りながら時間を過ごしているから必然と距離が近くなる。
「ここのスネアの音とかマジで興奮する。なんでこうなんのかわかんない。高温の抜け方やばい。スピーカー神じゃない?俺がメンテしたから?」
「はいはい、そういうことにしろ。」
延々とはしゃぎ続けるロムの腰に手を回し、その目を意図的に覗く。
「お前が何を隠したいのかは知らねぇが」
ロムがカラーコンタクトをしているのは、初対面からわかっている。必死に隠している外見の裏に恐ろしく澄んだ感覚を持っていることも。
……全部含めて、糞エロいんだよ。
女と男、どちらが好きかと問われれば女のほうが好きだ。柔らかいし喘ぎ声が良い。抱こうと思えばすぐ股を開く存在はいくらでもいる。
でも、男がダメなわけでもない。顔が綺麗な男なら尚更、ダメな理由は存在しない。その辺りの節操は、昌也は持ち合わせていない。
愛だの恋だの、そんな定義は知らない。
嫌なら嫌で笑い話だ。もとより、相手の反応を気にして自分の行動を決めるような論理では生きて来なかった。
重低音が響く90年代のラウドパンクを聴き流しながら、ロムの唇を奪いながらソファに押し倒す。
ねじ込んだ舌に恐る恐る反応が帰ってきた瞬間、抑えていた衝動が猛烈に沸き起こった。
「興奮すんだろ。好きな音楽聴きながら性欲処理すんの。」
「…………俺、挿れられんの?」
「悪いが俺は挿れるほうだからそうなるな。」
「………良いよ。」
薬に手を出したことは無いが、キマるとしたらこんな状況だろうと思った。
頭の中で快楽物質が惜しげもなく暴れているのがわかる。
酒と、音楽と、セックスと。
不健全な遊びは、昌也にしてはあまりに健全な感情とともに、ロムとの情事を燃え上がらせた。
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