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その日のライブは不思議なブッキングだった。
その名も『パンキッシュ☆アイドルナイト!』。
誰がライブの名前を決めたのかは知らない。ロムはそれが昌也では無いと良いなと思いつつ、思い返すほど昌也のような気もしていた。
ライブハウスは大雑把に分けると、ワンマン、貸し切り、ブッキングの3種類に分かれる。ワンマンは一般的に想像されるように、1組のアーティストがライブを開催して広く宣伝集客する。貸し切りはその名の通り特定の団体(サークルなど)が場所とスタッフを貸し切り、集客も身内に限るのでライブハウス側は宣伝に関与しない。
そして残りのブッキングが、ライブハウス主催で複数のバンドを同じ日にライブさせて集客するライブだ。大きいコンサートホールが主流のロムにはあまり馴染みが無かったが、テンペストのようなライブハウスではむしろこのブッキングが売りになる。ここでどれだけセンスの良いブッキング、つまりバンドの組み合わせを用意するかがライブハウスの集客に直結する。
それこそが、昌也が渋谷のライブシーンで悪名高いと言われる所以らしい。
休憩中に、『昌也さんのブッキングには、敵わない。』と竹内は呟いた。曰く、"バンドを生かしも殺しもするが、結果的にファンを増やすのに寄与する"だそうだ。
要は、絶対に相容れないように見えるようなバンドを同じ日にブッキングして、戦わせる。結果、食われるバンドとそうでないバンドが出る。それでも観客のうちの何人かは、目当てのバンド以外にもお気に入りを見つけて帰るのだ。だから、バンドがこぞってテンペストで演奏したがる。
ブッキングであればデモCDを踏まえたオーディションがあるが、倍率はそれなりに高い。事務所にある昌也のデスクに手書きで題名の書かれたCDケースが積み上がっているのがその証拠だ。
"これで行こうぜ!パンクバンドと地下アイドルがたくさん出るライブなんて、盛り上がるだろうがよ。"
やけに生生しく想像出来る昌也の台詞に、思わず笑いが溢れる。
……あれ?
しかしそれが本当に起こったことなのか判然としないことに、ロムは瞬間的に背筋を凍らせた。
それだけ自分が昌也に執着し始めているのか、それともやはり病気のせいで記憶と妄想の境界が曖昧になっているのか。
いずれにしてもあまり良い傾向では無いような気がして、ロムは本番直前のミキサーの前でブンブンと首を振った。
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