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昌也は録画したバンド演奏のDVD確認用に使っているディスプレイに夏浦のDVDをセットすると、向かいにあたる来客用のソファに座った。
ロムは仕方なく一人分くらいの空間を開けて隣に座ったが、昌也は一切気にも留めない様子でリモコンを弄っている。
チラリと、事務所の壁に掛けられた時計を見る。既に日は回っている。バイクで来ているので問題は無いが、昌也はどういうつもりなんだろうと勘繰ってしまう。
ドン、という音がして昌也が靴を履いたまま机に足を乗せた。頬杖の先は反対側の肘掛け。まるで"今日はお前に手を付けるつもりは無い"とでも言いたげな雰囲気に、ロムは微かな期待を持った自分を恥じた。
「おーおー……こりゃまた王道な設定で。」
躊躇なく再生開始された動画では、セーラー服を着た夏浦美衣が先程までのライブとは全く異なる妖艶な笑みで、カメラを見上げている。
セクシー女優、"森永みぃ"の名義。
『ねぇ、私のこと、可愛いと思う?』
男性教師に禁断の関係を迫る美少女。
それは素人モノとは違って明らかに明確な脚本をして撮影されている。不本意な撮影なのかどうかなんて到底わかりえないが、画面に収まる夏浦は意思を持ってこちらを見つめており、ロムはショックを受けた。
……なんでだよ。
今日見たライブの中で、1番マシだったのが夏浦のアクトだった。それはクオリティとは別に、想いが伝わる気がしたからだ。
それなのに、昌也に堂々と別名義である自分の出演するAVの売り込みをしてくる。そこまで必死に、一体何をしたいのか。
「……そんな、稼ぎたいのかよ。」
はだけたセーラー服の隙間から下着が見え隠れして、そこに男性教師の指が伸びていく。
不思議と全く欲情もせずに漏れ出たロムの呟きに、昌也はふっと馬鹿にしたような笑いを返した。
「……お前、なーんもわかってねぇのな。ほんと、腹立つ。」
「……は?」
画面から目を離して昌也を見るが、昌也はロムのほうを振り向いてはくれない。
威圧的な空気を放ちつつ、無言のままリモコンを弄る。昌也もそれほど興味無さそうに早送りをすると、完全なるセックスシーンになった。
男性の上に跨った夏浦が、苦しそうに顔を歪めながら腰を上下させている。モザイクのかかった部分はそれでも、明らかにちゃんと繋がっているのがわかる。
『先生っ、好き、好きぃ……!!』
「なぁ、何で俺に腹立つとか…」
「こいつらはさ、みんな」
台詞をかき消すように吐き出したロムの言葉は、さらに昌也の苛立った言葉に遮られた。
「こいつらみんな、誰かに覚えておいて欲しいだけなんだよ。」
その言葉に、頭を鈍器でガツンと殴られたような気がした。
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