プロローグ

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プロローグ

『昨夜、クソみたいな夢を見たんだ。』  理由はそれだけだ、と男は言った。  後から思い出せば明確なのはそれくらいで、抵抗するには充分な余地があったはずだった。  それなのに  その後に交わしたセックスと一緒に思い出すのは  爆音で流れる音楽が持つ圧力と  夜明け少し前に残った街灯の不確かさと  野外フェスに向かう広大な直線の道。  神が意図せぬ進化を遂げた先に偶発的な美しさがあるのだとしたら、音楽と音楽にまつわるアクセサリーの関係はそれに近い。  どこまでも無意味で、どこまでも再現性が無く  ほろほろ、ほろほろと消えていく  そんなクソみたいな憧憬にヤラれた二人だったからこうして世界が絡み合ってしまったと、後から思うのだった。  ――だから、今夜は篝火を焚こう。  かくして歴史にもアーカイブにも記憶にも残らない、燃えて消えるだけの時間を、あなたに捧げられたら。  それだけで生きた意味があったと、俺は、思う。
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