泥棒

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これで良かったのだ。 オズはまともだがドーズは普段から異常だったわけだし、例の事件についてもドーズに非があるに決まっているのだから。 「どこ行ったんだろうな、ドーズの野郎は」 「さあ。そのうち戻って来るんじゃないの」 放り投げるようにオズは相槌を打った。 ふと、部屋の扉が開く音が聞こえたので、キースは視線を向ける。 灰色のコートの女、クレオの姿がそこにあった。 「クレオさん……!」 「やあ少年、オズ」 「あら、どうしたのくーちゃん。何か用事?」 「親友に会いに来るのに理由がいるのかね?」 「ああんもう、嬉しい事言ってくれるんだからっ」 それを聞き面食らうのはキースだった。 親友?オズが? 過去の全責任がドーズにあるにしても、自分を辱めた男の頭部であることは間違いないだろうに。 「ねぇねぇ、また恋バナしなぁい?」 「またか?残念だが話のネタはないんだ」 「ぶうー」 クレオは、他の誰にも向けないような、優しい目でオズを見ていた。 「それよりもニルギリスは何処かね。彼女に用があるんだ」 「ニルちゃん?さあ、自分の部屋にいるんじゃないかしらン」 「ありがとう」 オズのおさげ髪を手に取り、握手会するように、きゅっと握るとクレオはそのまま部屋を後にする。 「クレオさん!」 それをキースは追いかけていく。 クレオはいくら呼びかけても、返事もしなければ振り返りもせず。 無視して歩き続ける彼女に付き纏って、キースは声をかける。 「クレオさん。あの、オズはっ」 「私の友人を甚く傷つけてくれたようだな少年」 ようやく返事をしてくれたクレオ。 だがその声はひどく冷ややかだった。 「全く君は厄介だよ。何を勘違いしているんだ」 「え……」 勘違い。その意味はいまいち解らないけれど、クレオが怒っているのは解った。 クレオがドーズと友人だというは知っているが、それにしたってやけに温度感が高くはないか。 謝った方がいいのか。否。僕は悪い事はしていない、と開き直る。 ただ自分の善意に忠実になっただけだから。 「少年、飴はいるかね」 「えっ飴?」 差し出されたのは、まん丸い飴玉。 鮮やかな赤色で、大きなビー玉のようにも見える。 甘いものはまあ好きだ。いつも煙草型チョコをくわえているくらいだから。 クレオはきっと、気まずい思いをさせないようにと気を使っているのだろう。 大人の気遣いだ。 「い、いただきます」 ありがたく受け取って、舌で転がした。 甘い。この味はリンゴ……だろうか。 「この飴どこで買ったんですか」 「オズが大量に作ったらしいんだ。方々で配っている」 「へえ……」 クレオはしばらく無言で飴を舐めるキースを観察していた。 が、不意に「そういえば」と話しかけてきた。 「本当はニルギリスに話したかったんだが、お前たちにひとつ依頼があるんだ。よろしいかね」 「え、依頼?どんな」 「お前達も既に聞き及んでるのではないか、街で噂の泥棒のことを」 「あー。あの顔泥棒とかいう」 「その犯人逮捕の手助けを頼みたい」
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