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辞めた理由
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その頃、歓楽街。
いやらしさが前面に出たリクルートスーツ姿で、聞き込みをしている女……パティが居た。
「あ、あのぅ、すみません。この辺で占い師さんを見かけませんでしたか?」
そう問うこと、何十回目だろうか。
彼女は、キースに言われて恋人の所在を探している。
この辺にいるという噂は聞いたが、何故かどこにも見当たらない。
それでも懸命に探し続けた。
「え、占い師……知らないけど」
「そうですかぁ……」
「占い師は知らないけど、さっき飴を配ってる人が居たよ。大勢に配ってた」
「飴ですか?」
「赤い美味しそうな飴でさ。いっぱいあるから一個いる?」
「あ、はい、いただきま……痛ぁ!」
頭になにか衝撃を受け、驚きのままに振り向く。
……見慣れた燕尾服の男。彼女の探し人、ベルトだった。
「他人から食いもんいただいてんじゃねーよ」
「す、すいませんベルさん。あのぅ、申し訳ないですがこれ遠慮します」
素直に飴玉を返せば、その人は不思議そうにしながらも行ってしまった。
「ベルさん!どこ行ってたんです、皆さん心配してらっしゃいますよ」
「辞めたんだから関係ねーべ」
「何で突然辞めちゃったんです?」
「関係ない。あんたとも別れるわ」
「嫌です」
さらっとした別れ話に、きっぱりした口調でパティが返す。
悲しんでるとかぐずってるとかいった風ではなかった。
「納得いく理由も聞かずに別れるなんて無理です」
「そう言うと思ったよ。多分他の連中も同じだ。だから勝手に辞めたんだけど」
よくよく見れば、ベルトは憔悴している様子だった。
ベルトは意固地だが、こんな風になるほどの精神状態ならば、押せば事情を話してくれるかも。
「ベルさん、本当に何があったんですか。お話してくださいませんか」
「……」
「ロールベルトさん。お願いします」
真摯に呼びかけ続けていると、ベルトはやはり限界だったようで。
ぽつぽつと、起こった事を語り始めた。
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