辞めた理由

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ーーーーー それを聞いたパティは、呆然としていた。 存在が、消える? 自分の恋人が最初から居なかったことになるって? 嘘だ、嘘だ、嘘に決まってる。 パティは初めて恋人の顔が見たくないと思った。 その目を見れば、きっと嘘だと思い込むことも出来なくなるだろうと確信していた。 ーーああ、ベルさん、私の目が見れない理由これだったんだ。 「ベル……なぁ、頼む。俺と別れてくれ」 「……あ……」 「あいつらにもよろしく。……あと……」 ベルトがまだ何か言い残そうとする。 が、その時不意に、とんでもない大絶叫が耳を刺した。 方角は、街の方。 どうやら、街の中で何か事件が起こった模様。 「な、何っ……?」 「おい、退んな。誰かこっち来んぞ」 「えっえっ」 たしかに足音は聞こえる。けれど、どこにも人が見当たらない。 音の響く路地裏、それも十字路だから、なおさらよくわからない。 何かいい匂いが鼻をくすぐった、瞬間、ふたりの横を何かが通り過ぎた。 けれどもやはり何も見えない、というか誰も居ないのだ。 透明人間……といったところか。 「よぅ、あんたあの日傘持ってるけ」 「えっ、はい」 「あの辺撃ってみ。できるだけ下の方」 指し示された方向に、言われた通り仕込み日傘を向ける。 そして思い切って、引き金を引いた。 「ぎゃあっ」 すると聞こえる、誰かの短い叫び声。 とともに、何も無いところから血飛沫が上がる。 奇術のような光景であるが、たぶん違う。 実際にそこに透明な誰かが居て、今し方パティの放った銃弾に被弾したのだ。 「あっ」 地面に散らばる血痕は、逃げるようにその場から離れていこうとしている。 追いかけるか否かベルトに視線で問えば、首を横に振られた。 「いいよ別に、多分あいつは仲間のところに帰るだけだから」 「仲間?何かご存知なんです?」 「……さっき言いそびれたことだけど、もっかい言うわ。よく聞きな」 「ーークレオとは距離を置け」
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