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自分勝手な彼ら
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「何と言った……今?」
「は、はい。顔泥棒が、また出た、と」
自警団団長、クレオは頭が痛くなった。
顔泥棒がまた出現した?
一等怪しいコノハナと、ついでにその兄まで収監したのにか?
じゃあどこの誰だ、犯人は。
ストレスだろうか、何やら体の調子が悪い。
目が妙に潤むし頭もぼうっとする。
足腰もしっかりせず、今にもへたり込みそうだ。
更には、風邪だろうか体の感覚がおかしい。
「まずいですよ団長、市民の反発がそろそろ無視できないものになってます」
心配そうに囁く部下に思わず苛立つ。
部下が心配しているのは、クレオではなく己自身の安全だとわかっている。
ここまで露骨に不調なのに、誰もそれに気づかない。
それだけクレオに興味が無いのだ。誰も。
「……っ」
悔しい。寂しい。
普段そんな事思わないのに、どうして今日に限ってこんな女々しい気持ちになるのか。
拳を握りしめ、誰にもバレない程度の深呼吸をひとつ。
そんなクレオに、ひとりの部下が近寄って報告してきた。
「団長、妹様がお見えになっております」
「……パティが?」
クレオは不思議に思う。
クレオとパティの姉妹は、そこまで仲は良くない。
妹であるパティが、厳格な姉に対して苦手意識を持っているからだ。
普段は会いに来ることもないのに、何の用なのか。
通せと命じればすぐにパティは入ってきた。
「お姉ちゃん……」
「何だ。今忙しいんだが」
思いつめている様に見えた、が、今のクレオに他者を気遣う余裕はなかった。
それがたとえ家族でも。
「……情報提供に、来たの」
「情報?なんの情報だ」
「顔を盗む泥棒が、居るでしょ?犯人に会ったわ。透明人間よ」
パティ曰く、今し方、噂の顔泥棒に遭遇した。
が、姿は目視できなかった。まるで透明人間のように。
だけれども、犯人の特徴に気づいた。だからそれを教えるために、ここに来たと。
「いい匂いがしたの」
「匂い?」
「お花……みたいな」
思わず天を仰いだ。『オズの子』だ。
コノハナとミフネでこそ無かったものの、やはりオズの血を引いた誰かが顔泥棒の犯人である。
そういう確信を得た。
「……工場と、ブランクイン、それと神父に連絡を取ってくれ。あぁ、あと監獄に迎えをやれ」
「はあ、誰を迎えに」
「オズの子……あの兄妹だ」
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