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考えろ
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「殺す?……クレオお姉ちゃんを?」
「あの子を孤独にさせて、野垂れ死なせる。それだけがアタシの目的よ」
オズはクレオを好いていた。愛していた。文字通り性的に。
なのに殺そうとしている?
他の何を踏みにじり、犠牲にしてでも?
「……何言ってるのか分からない」
パティは混乱したと同時に、吐き気を催すほどに憤慨した。
未だかつて無いほど訳の分からないことをほざく馬鹿がいる。
そいつと喋っているという現実に、直面して。
「え〜?アタシのとっておきの恋バナなのにィ」
「だって、好きなんでしょう。愛してるんでしょう、昔も今も。どうして愛した人を大事にしてあげないんですか?しかも他の女の人には乱暴して……!」
「話脱線してない?そんなことどうでもいいじゃないの。……ねえ、そうでしょ」
不意にオズが、パティ以外の誰かに話しかけた。
パティが背後を振り返ると、そこらじゅう無数のシャボン玉。
その中にラスカルがぼーっと立ている。
「ラスカルさん……!オズさんが、」
オズが、すべての黒幕だという真実を伝えかけて、止めた。
一緒に行ったはずのクローバーが居ない。
「ラスちゃん。クロちゃんは始末した?」
「したよ」
「そお。いい子ね」
直感する。
ああ、ダメだ。このひとも敵だ。
「何で……どうして裏切ったんですか」
「ぼくもう死ぬからさ。どうせ死ぬなら、もう何でもいいやって」
「だからって……!」
「それにオズさんはルークのお父さんだ。味方すればルークが褒めてくれる。オズさんがそう言った」
「そんなのっ……自分で考えて行動してないじゃないですか……!」
弛んでいたラスカルの表情が、ふと能面のようになる。
「あなたはいつもそうです。曖昧に返事して、流れに任せて、ほとんど自分の意志で動かない!そんなだから騙されるんです!」
「いいじゃないか別に、流されてたって。現に今まで誰も何も言わなかったろ」
「そうでしょうとも、あなたが行動の全責任を負う事であって、あなたが潰れても周りの誰にも関係ないんだから!」
正論である。
今まで同僚たちは、ラスカルについて放任的だった。
どこでも構わず眠り込んでも、夜遅くまで出歩いていても、何をしても別に怒らなかった。
けれどそれは、ラスカルを信頼しているとかでは無い。
いい歳の大人だから。行動に責任を持つべき年齢だから。
それをラスカルは、精神薄弱ゆえ、わかっていなかった。
「自分で考えなきゃダメです!!そろそろ現実を見てください!」
「黙れ!」
ラスカルが、自身の周りに浮かぶシャボン玉をパティ目掛けて殴り飛ばした。
対してパティは携帯した日傘を広げ、盾のように使う。
「きみなんかにわかるもんか、ぼくが失くしたもの全部もってるきみに!見苦しい気持ち悪い反吐が出る、聖女だと思ってたのに、とんだ淫乱女だったわけだね!気持ちいいことしましょう、とか言ってたものねぇ?ぼく思わず吐いたぞ!」
ラスカルに向けられる初めての敵意、憎悪。
自分のことを天使だと褒めそやしてくれていた幼い面影はまるで無い。
傷つく。怖い。けれど、ここで一歩でも引いたら死ぬだけだ。
(それに……)
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