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武器とはいえ、材質はそこまで丈夫ではない日傘だ。
泡が触れる度に焼け焦げて穴があいていく。
このまま防戦一方を貫けばきっと殺されるだろう。
「私だってっ……全部持ってるとは言いきれないですよ!」
パティは勝負に出る。
日傘を開き、身を隠したままで、真の用途を使う。
仕込んだ銃で、ラスカルを迎え撃つ。
だがしかし、ラスカルのシャボン玉は銃弾を跳ね返す弾力を持っている。
「知ってるでしょう、ベルさんは私をあまり大事にしてくれない!望むことを叶えてくれない!」
「それでも、ちゃんと生きてる恋人が居るじゃないか!ぼくは、ぼくだけは、どんなに愛してても触れ合えないのにっ……!」
ラスカルの声が轟く。
憎しみに駆られた、それでいてとても切なそうな叫び声。
それはまるで叶わぬ恋に身を焦がす少女のような。
「羨ましい、うらめしい、ずっとそんな思考で頭いっぱいだよ!だから何にも考えないでいた!つらすぎる現実から目を背けて、嫉妬で誰かを殺さないように、自意識を眠らせて!」
腕や脚、背中に尋常ではない熱を感じる。
が、パティはじわじわと、着実にラスカルに向かって前進していた 。
仕込み銃の弾が尽き果て、傘が骨組みだけに近くなった頃。
パティがラスカルに手が届く距離まで近づききった。
「っ……!!」
とうとう御役御免になった武器を投げ捨てるパティ。
が、それはイコール丸腰であり。
「さよなら、パティちゃん」
両の手で得物を握りしめたラスカルが、酸の潤沢なそれを、パティの脳天目掛け、振り下ろし
……かけた、その時だ。
「わあっ」
ラスカルの視界がぐるりと反転する。
頭を打ち目を回し、混乱しつつも頭上を見上げればそこには。
「よォ」
血みどろ傷だらけの、まさしく幽霊のような男がラスカルを見下ろしていた。
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