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全てはクローバーとパティの作戦だった。
オズが黒幕、ラスカルは敵だと言うのは、なんとなしに気付いていたふたり。
だから、まずはラスカルを欺いた。
パティは囮になり、クローバーが背後から近付いて、足払いを見舞ったのである。
「さっきはよくもやってくれたなァ」
「……何だよ。リンチでもするのかぃ」
「あァ、泣かしに来た」
泣かしに、とはまた物騒だ。
やはりまだラスカルのことを怒っている模様。
「お前、何がしたいんだ」
「……え」
「オズの手先にされて、ルークが褒めてくれると本気で思ってんのか」
「……、分からない」
「分からないは無しだ。自分の意見をハッキリさせろ」
単純な暴力ではなく、言葉を求めて攻めてくるクローバー。
「……えっと、……んん……」
「なら言い方を変える。……ルークが、お前に言ったことを思い出せ」
クローバーとラスカルは、文通でいろいろな話をした。
その中でラスカルはこう語っていた。
『臨死体験したとき、ルークに会ったんだ。彼がぼくに、自分の意志が大事だと言ってくれた。だからぼくはクローバーを助けるために、戦おうと決めた』
「あ……ぅ、でも、でもぼく、分からない……分からないままがいい」
「気持ちはわかる。自分で考えて行動しないのは楽だからなァ。できることなら俺も他人に責任押し付けてのらりくらり生きたい。だがダメだ」
「じゃあ殺してくれ……っ」
「ダメだ」
「もう嫌なんだ、もうひとりぼっちはやだぁ……!!」
「ダメだ」
拒絶たっぷりの言葉のわりに、彼の声は落ち着きはらい、優しかった。
クローバーがラスカルの傍らにしゃがみこんで、そっと抱き起こす。
「そんなのは俺が惚れたラスカルじゃない。ラスカル・スミスなら何をしてでも生き延びたいと願うし、そのために懸命するはずだ」
しゃくり上げ泣くラスカルを抱きしめ、何やら耳元に口を寄せる。
と、クローバーは咳払いをひとつ。
やがてゆっくり口を開いた。
「……大丈夫、俺はそばにいるよ。二度とひとりにはしないから」
発せられた声はクローバーのものでは無かった。
少年のような声だった。
たとえるなら、そう……声変わりして間も無い、少し低めではあるが優しい声。
ラスカルが愛してやまない声
「〜〜〜〜……っっ」
誰といても、何をしてても、ルークを忘れたことは一度もない。
今も、これからも。
呪いのようにふたりぼっちのまま、ここまで生きてきた。
けれど、もうそろそろ一人で立ってみてもいいのではないか?
もちろんルークのことを忘れる訳では無い。
ただ、今のままでは愛する者の存在が荷物になってしまっている。
死ぬまでおろす事の無い、大事な荷物。
その荷物をクローバーが一緒に持ってくれると言うのなら。
「……ご、めん……っ」
ラスカルが謝る。
「ぼく、やっぱりまだ生きてたい。死ぬまで、ちゃんと生きてたい。それでルークに会う」
「よし……それで良い」
「裏切ってごめんね……いっぱい痛い事してごめんねぇ……」
「許すかよォ、後で覚えとけ。馬鹿が」
クローバーの胸にすがりついて号泣するラスカル。
武器が手元を離れても気にかけている様子はないあたり、戦意はすっかり喪失していることだろう。
「作戦成功、ですね……」
パティが安堵感からその場にへたり込んだ。
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