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落とさないオトシマエ
二人が消えた森道を見て悄気る俺の前に立ち、丹治さんは深々頭を下げた。
「割り切って下さい、坊っちゃん。
結城さんのしてることは、あくまでも仕事ですから」
わかってる、
わかってるんだけどさ ──。
「丹治さん、結城さんはね。
俺と約束したんだよ、
飴でも牛串でも好きなもん買ってやるからって、、、」
「はい。
ですが恐らくそれは仕事を終えてからの」
「美人の姐さんじゃなくて、
この俺と約束したんだ」
遮る俺に丹治さんが ふっと含み笑う。
「困った色子さんですね」
「だって、、、」
鼻をすする姿を見られたくなくて俯くと、膝を折った丹治さんは目線を同じところに留め、片手を俺の膝に置いた。
「その足で歩くのは無理です。
このまま病院へ行きましょう。
僕の背中に乗って下さい」
言って足下に転がる下駄を取り、底同士を合わせて片手に収めた。
「病院なんて。
いいですよ、こんなことくらいで」
「駄目です。
僕が付いていながら足に傷を。
手当したところで落とし前には及びませんが、痛みだけでも止めて貰いましょう」
丹治さんはしゃがんだまま踵を返し、後ろ手を広げた。
「ほ、本当に大丈夫ですって。
俺、こ、ここで結城さん来るの待っ、、、」
最後の方が涙声になってしまい、それに気づいて再び向き直る丹治さんの冷静な目を見た途端、俺は我に返ったようにはっとした。
「すっ、すみません、丹治さんっ。
せっかく気を遣ってくれてるのに俺ったら、、、」
迫る俺に驚いた丹治さんと暫し見つめ合う。
「す、すみません。
でも俺、やっぱここにいます。
ここで結城さんを待ちたい、から。
あの、、、我儘言って、ごめんなさい」
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