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「もう一度」
腰にローブを巻いただけの丹治さんが立って行き、飾り棚を見渡してから今度は、、、
そう、例えるならフリスビーくらい大きな器を持って戻ってきたんだけど、
飲んだ酒が回り始めた俺の視覚は早々目に入るものを揺らめかせ、どこか愉しそうに笑う男が一人から二人、二人から三人に見えたりしている。
「大丈夫ですか?
あまり酔ってもいけませんし、これで必ず決めましょう」
心配する割には盃が倍々クラスでデカくなっていき、
「はいぃ、しゅみません」
うなだれる俺の舌は早くも呂律がおかしくなっていた。
三度目の口上を終えると、気を遣った丹治さんが少しフライング気味に器を取って傾け、その後俺が残りの酒を空けた。
「ふぃ〜、、、」
たとえどんなに高級な酒でも、体質的に弱い俺には灼熱の液体と感じるのはわかっていたことだ。
けどここで出された酒は
『こんなに?』
と疑うほどの強さで、しかもそれはすぐに全身の血管を膨張させ脈を躍らせた。
とはいえ、、、
兎にも角にも、
─ これで結城さんを助けて貰える。
フリスビー級の器を置いた俺は凛々しくも男前な顔を眺め、
『俺はこの人の弟分になったのか』などと考えていた。
「これで僕と坊っちゃんは今日より子弟の関係となります。
今後僕の言うことは絶対、
是も否もなく全ての命令に従って頂きますよ」
「はぃ。
よろひく、お願い、、、しま、ふ」
頷きながらも ほやほやと頭が煮えたようになっている俺の足腰はおぼつかない。
気が付けば身体と身体が受ける感覚は
別物のようだった。
目の前にしゃがんだ丹治さんが、床に手を着く俺の顎を取って上向かせた。
「、、、」
黒い瞳が真っ直ぐ俺を見つめ、顎を支えてる手の親指が下唇から頬にかけてをスッと撫でる。
「可愛い方だ。
少しの薬と酒でこんなに顔を染めて。
このままベットに傾れ込みたいところですが、、、
その前に坊っちゃんには一仕事して頂かなければなりませんからね」
「あに?、、あんですって、、、?」
いま薬って言った?
空を掻いた腕が取られた次の瞬間、身体がふわりと浮いて丹治さんの胸の中に移っていた。
「ふぉ、、ん?」
ぐるぐる回る天井を見ながら俺は、
真上にある丹治さんの顔に結城さんを重ね、
『会いたいよ、、、』
とか、
『どこにいるの、結城さん』
などと呟く中、ゆらゆらと運ばれて行った。
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