駆引き

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駆引き

揺らぐ視覚に目をこすり、目を開けると部屋が変わっていた。 今いるのはまるで小さなスタジオのようで、天井にはいくつかの大きなライト、入口手前には小さなテーブルがあって、その上に一台のラップトップが置かれている。 何かのセットだろうか、、、 いや、それにしては妙だった。 壁から垂れる二本の鎖の先には手枷が付けられていたし、その真下には背もたれのない猫脚を持った赤い幅広カウチ、床は打ちっぱなしのコンクリートになっていて中央には排水口のような穴まである。 この部屋は、、、何だろう。 鈍る頭を巡らせている間にも丹治さんは俺をカウチに下ろし、あっという間にバスローブを取り去って両手首に枷を嵌めた。 抵抗しようにも手足は怠く、思うように動かない。 「丹治、、、さん?」 「あまり動かないで下さい。 、、、傷になりますので」 裸に剥かれ手枷まで嵌められてパニックになってるものの、重い口は開くのがやっとだった。 「な、、んで、、 こんな、、こと、を」 「僕は様々な理由から生涯舎弟は取らないと決めていたんです。 しかし結城さんに対する貴方の熱い想いに心動かされました。 盃を交わしたからにはこの響屋(ひびきや) 丹治(たんじ)、血よりも濃い弟の願いを完璧に叶えて差し上げたいのです。 ですがその前に、、、 説明が遅れましたが、このマンションはただの居住空間ではなく、背信者や敵対する者に制裁を加える目的で僕が管理しているものです。 ですので専有部には誘い込んだ者の自由を奪う様々な仕掛けがありまして、実を言うと先ほど貴方が使ったマウスウォッシュには少しだけ薬が仕込んであったんです」 「く、く、くす、くす、薬ぃ?」 「願いを叶えると言いましたが、これから僕がすることは貴方の協力なくしてはできない。 その為には必要なことでして」 この部屋に入ってからこっち、丹治さんの眼つきは変わっていた。 俺に対する呼び方も『坊っちゃん』から『貴方』になっているし、声音もどこか怖ろしく感じる。 「兄貴分の命令は絶対ですよ。 とはいえ生涯恨まれたくないので一言断っておこうかと。念のため」 「、、、、」 「お返事は?」 「は、、、、、ぃ」 って言っても今の俺の状況は尋常じゃないだろ。 丹治さんの眼の色も。 それに、 『生涯恨まれたくない』って言葉、 その意味にしても理解及ばずなわけで─── でも、 結城さんの為に俺ができることと言えば、(タマ)すら差し出せると言った丹治さんの良心(そんなものが果たして極の王道を行く男にあるのなら)にすがるのみ。
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