駆引き

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クマさんの顔には明らかに暴力を受けたであろう痕があり、腫れ上がった両目は開いておらず、口の端は切れて所々が紫に変色している。 側には丹治さん同様、決して粗野ではない男たちが数人いたけれど、そのうちの一人がこん棒のようなものでクマさんの顔を下から支え上げていた。 『なぜ森山田を』 どうにかクマさんだと判別できる様相に、水無月さんが怒りを抑えながら訊いた。 「柳洞組を見縊(みくび)ってもらっては困ります。 僕らにとって結城さんは大変貴重な存在ですが、組の情報を外に漏らす可能性もある危険因子なわけでして。 イロがいるとなれば、そのイロと繋がりのある者もマークする。 こちらの世界では当たり前のことですから。 だいたい、、、貴方がたの脇は甘すぎやしませんかね、生活安全課の小者に結城さんの過去を嗅ぎつけられて。 マスコミにでも漏れたらどう始末つけるんです?」 丹治さんの口ぶりからすると、結城さんの過去を知っていたようだった。 更にクマさんの存在も、クマさんが原因で結城さんが勾留の身だということも。 でも、だとしたら、、、 なんで何も知らないふりして俺と兄弟盃を交わしたんだろう。 『響屋。 そいつは、汰士(たいし)は確かに結城のイロだった。 だが今は全くの無関係だ』 「ええ。 ですから盃を交し、僕の舎弟として頂いたんです」 『舎弟だとぉっ?』 「と言っても、、やはりイロと同じ扱いになるでしょう。 せいぜい楽しませてもらいます」 机を叩く水無月さんの横から制服姿の年配者が割り込んできた。 『警視監の野田だ。 響屋、お前の目的は何だ』 「そうですねぇ。 森山田さんについては、とりあえず結城さんをうちの事務所に返して頂けたら、相応の制裁の後、解放して差しあげましょう。 この子に関しては放っておいて頂きたい」 髪を掴まれたまま、ゆらゆら揺らされてる俺は薬と酔いが同時に回り、口すら閉じることができない。 『「結城を返せ」だと? あいつはお前ら柳洞組の手先じゃない』 「元々あなた方の手先でもない」   丹治さんが静かなため息を吐くと、 指示を出してないにも関わらずクマさんへの暴行が始まった。 「丹治さ、、暴力は、駄目、やめて、、やめ、させて」 警察とクマさんがいる部屋の双方から怒号が飛び交う中、丹治さんはゆっくりと視線を画面に向け、『やめ』と制止した。 その一言で殴打がぴたりと()む。 「人の痛みを見るのは嫌いかな、汰士(たいし)。 ですが慣れれば愉しくなりますよ」 丹治さんはカウチに腰を降ろし、俺の頭を膝に乗せて撫でた。
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