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代えて守るもの
組事務所から結城さんが到着したのは十数分後だった。
両脇を固められながら室内に入ってきた結城さんは、無様な姿をした俺を見るなり目元を歪めた。
「ウチのに、、、何してくれてんだ」
見える感情は限りなく無に近いけど、結城さんの場合そうであればあるほど隠し持っている『怒り』が強く根深いことを俺は知っている。
丹治さんはニ、三回俺の頭を撫でた後、耳元で囁いた。
『貴方の願い通り、結城さんを引っ張り出しましたよ』
「丹治さ、、、
こ、これ、、外し、、て」
掠れる声で訴えると、あっさり手枷を外してくれたので、俺はよろよろと立ち上がった。
「結、、城さん」
それでも歩くには力が足りず膝が折れる。
仕方なく這って前に進もうとすると、
「駄目ですよ。
貴方はもう僕のものなんですから」
足首を掴んで引き戻した丹治さんが笑いながら俺の腹を拾い抱き、カウチに座った。
結城さんとの距離は3メートルほど。
「丹治、てめぇ」
結城さんの低い声。
それに対し、丹治さんは結城さんの踏み出す一歩を見逃さず『近づくな』と手を上げる。
「色子を守りきれない貴方が悪い。
水無月さんらにはお伝えしましたが、僕は汰士と舎弟の契りを結んだんです。
ですのでここに来て頂いたのは この子の願いを叶えるため。
返すとか返さないの話ではありませんから」
「俺にはその話以外、用はねぇよ」
今にも飛びかかって来そうな結城さんの両腕を屈強な男たちが掴んで固めた。
「結城さん、そろそろサツの遣いは辞めて我々柳洞組に入りませんか。
頭にも了解を得てますので、来て頂ければそれなりの椅子をご用意しますが」
「断る」
結城さんの即答に丹治さんは苦笑いで首を傾けた。
「残念だ。
では先程の方々はこちらで処分させてもらいましょうか」
丹治さんは仲間の男に指示し、ラップトップの画像を壁に大きく映し出させた。
見えたのはコンテナのような窓のない空間に縛られ閉じ込められているクマさんと二人の男。
その映像は水無月さんの所にも送られているらしく、警視監が裏返った声で叫んだ。
『おい、どういうことだ響屋っ、
結城を渡せば森山田を返すという話だっだろっ』
「ええ。
ですから今確認したんです。
しかし本人に『渡される』気がないのでは話にはならない。
そうでしょう?
貴方がたには何度もケツ割られてますのでね、こちらもかなり疑り深くなっているんです」
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