代えて守るもの

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丹治さんは目で合図し、先程の男に鋭利なナイフを持って来させた。 「結城さん、貴方がどうしても柳洞組に入りたくないと言うならば構いません。 ですが我々と縁を切る為にして頂きたいことがあります」 「しねぇよ」 「いいえ、しますよ。 でなければ森山田を()めます」 射るような視線を丹治さんに据え、 少しの間をおいて結城さんが訊いた。 「言え」 「貴方にはサツの犬も辞めて頂きたい。 その証として利き手首に埋め込まれている追跡記録装置をご自身で取り除いて下さい、今すぐに」 『ま、待ってくれ。 待ってくれ響屋、結城にそんなものは、、、』 警視監の声は明らかに上擦っていて、事実を隠そうと割り込ませた否定は むしろ信憑性を増しただけだった。 「我々が気づいていなかったとでも? 頭が聞いたら嘆きますよ、柳洞組も舐められたもんだと。 ああ、それと結城さん。 ナイフを手にしたからといって妙なことは考えないことです。 貴方は一人、こちらには十数人の控えがいる。 面倒を起こせば血を見るのは貴方と森山田だけではない。 意味はわかりますね?」 睨む結城さんに頬を緩めた丹治さんが指の背で俺の頬を撫でる。 「覚えてろよクソが」 「良いですね、その殺気。 結城さんはやはり極道向きですよ。 同じ血を持つ僕にはわかるんです。 貴方は本能の求めに応じ、躊躇なく人を(あや)められる類の人間だ」 「丹治さん、、、 わかって、、、ない。 結、城さんのこと、、何も、 わかって、ない」 どうにも黙ってられず、出せる限界の声を絞り出した俺に丹治さんは口を寄せ、愛を囁くように返した。 「信じられませんか? でも太古の昔からいるんですよ。 彼のようなサイコパスは」 「うるせぇな。 すぐに終わらせてやるから口を閉じてろ。 って言っても手入れイマイチだな、これ。 しかも消毒無しで使えってか」 渡されたナイフを手に持ち、刃先と側面を交互に見た結城さんが呟いた。 『響屋の脅しに乗るな、結城っ。 下手に傷つけたらお前の手は使い物にならなくなるぞっ』 画面からは悲壮とも取れる警視監の叫びが続いていた。
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