代えて守るもの

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水無月さんの言葉に俺は背中を打たれたような衝撃を受けた。 結城さんはSITの中でも精鋭中の精鋭。 手首の腱なんか切ったら二度と銃を持てなくなるんじゃないか? いや、その前に出血多量で死んじゃうかも知れない。 「結、、、」 水無月さん同様、止めようとした俺に結城さんが被せて言った。 「森山田らを解放し、事務所の外に待機している機動隊に引き渡せ。 やるのはそれからだ」 「いいでしょう」 丹治さんからの指示がいくと、すぐさまクマさんと二人の男達は外へと連れ出され、大勢の機動隊員らに囲まれながら待機していた救急車両と警察車両に分かれていった。 その様子を見届けた結城さんはナイフを左の逆手に持ち替え、警視監の、 『結城、早まるなっ』という叫び声を合図とするかのように、手首の筋に沿ってズブリと深く切り込んだ。 「ゆっ結城さん、、、っっ」 『結城っ』 手が、、、 結城さんの大事な手首が ─── 勢い良く飛び出した血液は次第にカーブを緩め、床に血の溜まりを作っていく。 ─── 肉を開いた刃先が(えぐ)り出したのは筒の形をした金属だった。 太さは一般的なストローほどで、長さは5センチくらい、血に塗れてはいたけど、端にははっきりとした旭日章の刻印が見えた。 「は、、、。 ご丁寧に桜代紋まで入ってたとは。 なるほど、この装置には警察の闇がかなり詰まってそうですねぇ」 丹治さんは回収させた金属筒を感心しながら見届けた後、画面に向かった。 「警視監さん、あれは我々への抑止力として今後使わせて頂きますよ」 結城さんには、 「お疲れ様でした。 これで私どもと結城さんは何のご縁もありません。 今すぐお引き取り下さって結構です」 と言って、視線を合わすこともしなかった。 「汰士(たいし)をこっちへ寄越せ丹治」 左手で傷ついた手首を握り、結城さんは 目を細める。
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