代えて守るもの

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「いい声ですね。 ですがあまり僕のイロを脅さないで下さい。 さっきまで元気だったのに、見てください、貴方を怖れるあまり彼のここが こんなに小さく萎びてしまったではありませんか」 俺が怖いのは結城さんの止まらない出血にであって、声なんかじゃない。 なのに丹治さんは閉じた股の間で萎縮しきっている俺の亀頭を無理やり指先で引っ張り出し しごき始めた。 「丹治」 二度目の呼びかけでようやく顔を動かした丹治さんは、結城さんに向かって嘲笑うかのように上から下へ、下から上へと視線を馳せた。 「この子が欲しいですか? どうしてもと言うなら、本人の意思も確認しないと」 クニクニとしごきながら『どうしますか?』と俺の顔を覗き込む。 「か、帰りたい。 俺、結城さんと一緒に帰り、たい。 お願、い、丹治さん、もう離し、、て」 俺への陵辱はともかく、結城さんの手首を切らせるなんて芝居にしてもあんまりだ。 一刻も早く病院に行かせてあげたい、結城さんの治療を見届けたい俺は必死で丹治さんに頼み込んだ。 「それは残念ですねぇ、契りを結んだばかりなのに」 『私からも頼む、響屋。 その子を結城に渡してくれれば、今回のことは事件扱いにはしない。 柳洞組に対しても咎めは無、、、』 画面いっぱいに身を乗り出す警視監の身体を、途中から黙していた水無月さんが手を出して止めた。 『イロ扱いとはいえ、古くからのしきたりを重んじる柳洞組が一旦舎弟にした者を簡単に返すとは思えねぇな。 お前、何を企んでる』 丹治さんから伝わる振動は、声なき笑いのせいだった。 「何も。 ただこの子の望みが後々ひっくり返るような事があっては、と思いまして」 丹治さんは膝に座らせている俺の足を掬い、身体の向きを変えて向かい合わせた。 「契りを交した兄貴の命令は絶対。 背くならエンコ、つまり利き手の指を切り落として組から抜けて頂く必要があります。 『エンコ詰め』と言いまして、他所(よそ)の組ではあまり聞かなくなりましたが、ウチではまだ健在ですので」 「エ、、、エンコ、詰め」 『何を言ってるんだ、響屋。 彼はカタギの人間なんだぞっ』 「もうカタギではないと言ったでしょう? おい、詰め用のヤッパ(刃物)持って来い」 丹治さんに命じられた男が頭を下げ、慌てて出て行く。 「あ、あの丹治さん、 ほ、本気でそれ、言ってます?」 「ええ」 遠くを見るような、沈んだ色の冷たい目。 その奥には底知れないものが光る。 マ、、、マジだ。 丹治さん、マジで言ってるっ。
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