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「俺が代わる。こっち持って来い」
男が木製の台に和紙と短い日本刀を乗せて入ってきたところで、結城さんがすかさず声をかけた。
結城さんに『来い』と言われ、一瞬迷った男が丹治さんを伺った。
「利き手指に代えてでもってヤツですか。
見上げた根性ですが、『代わりに』となると小指では安い。
貴方の場合は、、、そうですね、狙ったものを外さない神エイムの称号を頂くということで、人差し指にしましょうか」
『やめてくれっ、結城ほどの男は二度と現れないんだっ、それだけはやめてくれっ、結城っ、お前もわかってるだろっ』
警視監の悲痛な叫びも二人には聞こえてない。
結城さんはパソコンから抜いたケーブルで腕を縛り、止血しながら血に汚れた袖を捲り上げて『早くしろ』と男に催促している。
そんなの ───
駄目だ、絶対に駄目だっ
「丹治さんっ、おっ俺、やりますっ。
自分の始末は自分でつけますからっ」
怖さはどこかへ飛んでいた。
酒と薬はまだ身体に残ってる、今なら酔いの勢いもあるし痛みだって少しはマシだろう。
「本来ならそれが道理なんですけどね。
結城さんのエンコは『生き指』って言いましてね、組にとっては貴方より価値が高いんですよ」
「だっ、だけど丹治さんと契りを交したのはこの俺、、、ひぃっ」
物凄い速さだった。
俺がまだ訴えてる最中、片膝を着いた結城さんは、床に置いた和紙の上で自らの指を落としていた。
その一部始終を画面の向こうにいる人たちも見ていたようで、またたく間にどっちもこっちもが騒然となった。
『結城っ』
「結城さんっっ結城さんっ」
丹治さんの腕を無理やり逃れ、結城さんの元へ這い寄ると、無事な方の手が俺をしっかりと受け止め、
『帰るぞ、俺達の家に』
と言った。
先が欠損した結城さんの指元を握り、止血しながら震える俺の肩に一瞬何かが触れた感触があり、顔を上げると男が氷を入れた容器で俺を突いていた。
「微小血管吻合(マイクロサージャリ)が出来る医者を確保しています。
今からお連れしますので貴方は服を着て。
大丈夫です、結城さんは切断する箇所も仕方も心得て落としている。
急いで手術すれば繋がりますから」
既にパソコンの通信は切られているのか、画面の向こうにあった喧騒はいつの間にか聞こえなくなっていた。
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