代えて守るもの

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どういうことなの? これはどういうことなんだ? 男の言動に驚いてる俺が呆気に取られていると、丹治さんが結城さんに近づいて来て頭を下げた。 そしてヤクザには似つかないほど凛々しくも涼やかな顔を差し出した途端、結城さんはその顔面を思い切り左手で殴った。 「結城さんっ?」 「蛇の道は蛇かよ。 てめぇの趣向盛り過ぎなんだよ。 恩には着るが、やられたことは忘れないからな」 礼とも恨みとも分からないような台詞を吐く。 吹っ飛ぶほどの勢いで殴られたにも関わらず、丹治さんはどうにか身体を立て直し、殴られた箇所を押さえもせず 再び頭を下げた後、上目遣いで、でもさっきまでとは違う真剣な眼差しで応えた。 「恨まれるのは承知の上でした。 それでもこれが極道のやり方です。 貴方にとっての代償は大きかったかも知れませんが、今後二度とサツには口も手も出させません」 そしてふらつく俺を一旦座らせ、簡単に身体を拭いてから持って来させた服を着せて言った。 「結城さんは、処分を受ける前に僕の所へ来て頭を下げたんですよ。 『手を貸してくれ』と。 組の頭をはじめ、僕ら一同も心底驚きました。 彼という人間だけは生きている限り、人に頭を下げるようなマネは絶対にしないと思っていましたから。 てすが、、、そうしてまでも貴方との生活を守りたかったんでしょう」 「丹治、余計なこと喋ってんじゃねぇ」 渡された止血テープを巻きながら結城さんが顔を歪めるも、丹治さんは続けた。 「『手を貸す手段(・・)』は任せて頂くことでお請けしましたが、極道を名乗る以上、半端なことはできませんからね。 秘密保持は極少人数が基本。 汰士(たいし)君にも本当のことは言えませんでした」 丹治さんが俺の頭を優しく撫でる。 「そ、、、そう、、、 そうだったんですか」 「非情であればあるほど視覚に訴える効果も高い。 そこで僕の趣向をかなり盛り込んだのですが、さすがにここまでは結城さんの『男の部分』が許さなかったようで。 まあ、殺されるまでには至らなかったので甘んじて殴られておきました」 「チビ。行くぞ」 「は、、、はい」 立ち上がった結城さんに付き添うつもりの俺が足元をふらつかせ、支えられてしまった。 俺の頭ん中は混乱したままだったけど、取り敢えずでも丹治さんに礼を言うべきなのかどうか迷い、振り返ってみた。 「丹治さん、、、」 口を開きかけた俺に頭を下げ、そして上げた後に見せたのは、あの祭りの日と変わらない微笑み。 丹治さんは極道を行く男とは思えないほど俺に向かって穏やかに頷いた。 「お疲れ様でした、『坊っちゃん』」
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