No Name

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「あっ、、、だめっ、だっ、、、て。 まだ全快じゃないんですからっ、指っだめだってっ、、、ぁっ」 ─ 全く、、、 利き手の手首を切り、人差し指の先を落として重傷を負った人間の所業とも思えない。 ─── あの日、すぐに接合手術を受けた結城さんの指は見事に接着した。 手首の完治は指より一足早く、新しい年を迎える頃には日常生活を送るにもほとんど支障がなくなっていた。 とは言え微細な硬直は残ってて、 担当医には、 『完全回復を望むのは厳しい』 と告げられたそうだ。 それによって、結城さんはSITから外され、刑事部を除籍にはなったけど俺が危惧していたような処分は一切なかった。 で、 仕事はと言えば外務省の事務補佐官のみとなったわけだけど、結果的には危険な現場と無縁になり、勤務時間がほぼ固定されたことで二人で過ごせる時間が圧倒的に増えた。 何がどうなったのか、結城さん個人の生活を監視されることもなくなったようだし。 でも当の結城さんはどうなんだろ? 表社会にも裏社会にも名を馳せた 『神の手』が二度と戻らないってことをどう受け止めているのか。 自責の念でいっぱいの俺は勿論、 一生かけて心身共に支えると決めているけど。 ─── 「リハビリしようぜ、リハビリ。 時間はたっぷりあるからな、お前は身体使って手伝え」 本人は凹むどころか、公務災害で得た長い休みに超ゴキゲン、その様子を見る限り、弱みを見せない為のカラ元気とか強がりってわけでもなさそうで、、、 「は? 俺の身体でリハビリなんか、、、 あっ」 先ずは玄関に入ったところで思いっきり俺を抱きしめてきた。 「チビ、、、俺の、チビ」 匂いを嗅ぎ、たっぷり時間をおいてから貪るようなキスを浴びせまくる。 「指、、、気をつけ、、ぁむ」 その間こっちは靴を脱いだり、荷物を放り投げたり、服を脱がそうとする手を阻んだりで忙しい。 「あー、お前の感触と匂い。最っ高」 「ちょっ、と、まっ昼間か、、、ら」 挙げ句押されまくって床に倒される俺。 包帯は取れてるけど、痛々しい接着痕がある指は、見てるだけで痛覚を覚えるし、何よりぶつけたりしないかとハラハラして仕方ない。 服の中をまさぐる手をビビリながら掴んで止め、 「駄目、本当にまだ駄目ですよ、結城さん」 俺は強い意思を保って本気で首を横に振った。 けど結城さんも負けてはいない。 俺の視線を跳ね返した真顔は、額同士を合わせて脅す。
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