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昭和の風
そんなこんなで俺は、
結城 尊という『変な人』と同居をすることになった。
結城さんの家、
というか借りている古い建物は元々一軒家だったようで、今は一階がショットバー、その二階部分を住居として貸せるよう、水回りだけを後付したらしい。
一階の店はもっと前に改装されたらしくイマドキな洒落た内外装になっているけど、二階は壁と畳を取っ払ってフローリングを敷いただけの広いワンフロア。
いわゆる板の間ってやつだ。
その床自体も長いこと使い込まれ、傷はあるものの独特のなめらかさがあって部屋に残った4本の柱と共に良い意味での年代を感じさせていた。
店の横にある内階段を登り、玄関を入ってすぐがキッチン。
キッチンを挟んで右側が風呂とトイレ、左側に件の板の間が広々縦長に伸びていて、その突き当りには左右に開く4枚ガラスの窓がある。
預かった家の鍵と荷物を床に置くなり、俺は真っ先にベランダに出てみた。
陽当りはそう悪くない。
狭い路地をはさんで真向かいにある建物が平屋のおかげでか圧迫感もない。
手摺まで茂った緑の葉を不思議に思い真下を覗くと、バーの入口に据え置かれた鉢からにょろにょろと枝が這って、そこからの葉がベランダの錆びた鉄部をこんもり覆っていることがわかった。
くるりと向きを変え、手摺に肘をかけて室内を眺める。
「部屋はこの一間だけ。か」
戻ってダンボールを開き、辺りを見回して襖のない上下とも空っぽの押入れに目を留めた。
物という物がベッド以外にはない。
殺風景な部屋に運び込まれたダンボールがもの寂しくすら見えた。
取り敢えず下段に取り出した私物を全て押し込み、上段に乗っかってから足を下ろして座った。
結城さんは朝から外交官の人たちと打ち合わせがあるとかで、昨日のうちに鍵を預けてくれていた。
ネゴシエーター、つまり交渉人としての任務に就いている結城さんは警視庁に籍を置きながら普段は専ら外務省の仕事をしてるらしい。
「大丈夫だよな、あの人」
初日から俺のほっぺたにキスしてきたりして、かなり警戒したけど、そっから昨日までは仕事場でも至って普通に接してくれているし。
まぁ、仕事と言っても俺に与えられるのは今のところ差し障りのない書類の整理や午前中に注文しなければならない昼弁当と夕弁当の取りまとめ、その後届いた弁当を各人に配ることくらいで、電話一本取らせて貰えるわけでもない。
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