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そこから約小一時間、
止め続ける丹治さんに構わず俺は、
手水舎で手を洗う姐さんの袂を持って介助する結城さんや、金魚をすくえなくても仰向いてコロコロ笑う姐さんを片腕で支えてやる結城さんの姿を追い続けた。
けれどそれまで順調だった尾行は、
結城さんが彼女の為にキャラクターカステラとリンゴ飴を買い求めた後、二人で参道を離れて涼し気な神社裏の森道に入ったところで突然終わった。
「、、、痛って」
慣れない下駄に耐えながら歩いていた俺の足がここへ来て鼻緒に当たる部分に限界を迎え、近くの石垣に座り込むほどの痛みをもたらしたからだ。
下駄を脱いでそれぞれの足を持ち上げて見れば、親指と人差し指の間の股が両足とも擦れて赤くなっている。
「もぅ〜〜〜〜っ」
この傷が、焼きソバもタコ焼きも、カラアゲにポテトも食べないまま、尾行に費やしたせいだと分かっていても、そこまでして二人を追い続けた自分に苛立ち、唇を噛んだ。
「千円も使ったのに、、、」
この行き場のない苛立ちはきっと無駄遣いのせいだ。
射的も的当ても大ハズレしたんだし。
けど何度そう言い聞かせても、もう一人の俺が脳裏に現れてガキみたいに拗ねる。
─ あの姐さんは結城さんの手を借りてハッカの菓子を獲ってもらい、的当てと金魚すくいを楽しみ、フルーツ飴にカステラやらリンゴ飴まで手に入れたのに ─
と。
そしてそんな自分が、いつの間にか遠い日の俺を呼びつけていた。
『── お母さんはお兄ちゃんを見てあげないといけないの。
汰ちゃん一人でできるわね』
母親を独り占めする兄貴への嫉妬。
「まさか」
首を振るものの、今あるのは確かにその昔、母親のみならず周囲の関心を独占する兄貴に宛てたのと同じ感情だった。
だとするとこれは、結城さんを独り占めする姐さんへの、
「嫉妬、なのか?」
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