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金持ちなんだか貧乏なんだか
階段を降りこたところで背の高い男の人に出くわす。
「おっと」
「あっ、すいません」
危うくぶつかりそうになって避けると
一階の店の扉が開いているのが見えた。
「珍しいね、君お客さん?」
男の人は、俺の顔と階段の上の方とを見比べ、にこっと笑ってその後に『結城の?』と続けた。
「はい、あ、いや。
今日から結城さんと同居することになった、同じ職場の中野 汰士って言います。
よろしくお願いします」
「へえ」
同居と聞いて突然目を輝かせた男は結城さんとは友だちレベルの付き合い兼、店の主だそうで、名前を桝谷と名乗った。
桝谷さんは白いシャツに黒い短髪が映えた、見た目三十前後の爽やかスポーツ系イケメンだった。
同じくらい背が高くてもどこか冷たい印象を持つ結城さんとは少し違い、愛想ある笑顔が良く似合う。
「俺は生まれも育ちも下町なんだ。
近場のことは何でも聞いてくれよな」
加えてさすがの接客業、気安さも好感。
そこでちょうど良かった、と俺は、
「この辺にスーパーと、、、あとリサイクルショップってありますか」
同居するに当たり、先ずはちゃぶ台を買わなければならないことを伝え、今後も日々の食材などを揃えるのに安い店が近くにあるかなどを訊いた。
「ああ、ちゃぶ台ならすぐそこの骨董屋にあるよ、きっと。
酒の類ならうちが仕入れ値で譲ってやるよ。
結城好みの銘柄なら知ってるし、あいつは瓶しか飲まないからな、買うとなるとそれだけで重たい上に空瓶の返却だって大変だろ?」
ちゃぶ台という昭和ワードにも顔色一つ変えず、桝谷さんはその場で『スマホ出して』と言って、近所にあるスーパーや商店街のあらましまで送ってくれた。
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