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そして午後8時、
「帰ったぞ」
結城さんがやはり昔のドラマに出てくる親父のごとく玄関で声を張った。
「お、おかえりなさい」
慣れないシチュエーションに戸惑いつつも、俺は満面の笑顔で応える。
この笑顔は仕事を成し遂げたという自己満足感から出たものだ。
結城さんは肩に掛けていた でっかいバッグをドンと床に降ろし、暫し俺の顔をじっと見つめたものの、すぐに目を逸して洗面所に向かう。
なに、なんかあった?
俺はそのまま目線を床に遣った。
何もない部屋に持ち込まれた旅行用バッグ。
どうやら結城さんにしても今までここをメインの住処とはしていなかったっぽい。
俺は結城さんの背後から声をかけた。
「風呂、沸いてますよ?」
「、、、ああ、飯前に入るわ」
言いながら結城さんは俺の前でバサバサと服を脱ぎ始めた。
「今日は特に暑かったですもんね」
その時、全裸の結城さんは風呂のドアに手をかけて数秒間動きを止めた後、射るような視線を俺に寄越して言った。
「あのさ」
「は、はい」
稀に見る『神様は不公平だ』感満載の高身長に顔面パーフェクト。
プラス、肩やら二の腕やら胸やら腹やらのバキバキに締まった筋肉の圧が凄い。
「俺が帰った時、、、
初めに何て言った?」
は?
初めにって、、、
何だっけ。
「えーと、、、。
『おかえりなさい』だったかな」
俺は比べたところで到底足下にも及ばないソレから慌てて目を逸らして答えた。
一旦バスタブを眺めた結城さんが振り返ってもう一度訊く。
「なんて?」
「お、、おかえりなさい。って」
何かマズかったかな?
ちょっと馴れ馴れし過ぎたとか。
「、、、、」
「、、、あの?」
その直後、
蒸し暑い古屋の、
蒸し暑い脱衣場で、
やたら涼し気な顔をした全裸の結城さんがガン見のまま、ふっと口元を緩めて口にしたのは、
「おう」
という返事だけ。
そのままスッと風呂場に入ると後ろ手でバンと扉を閉める。
「な、、、」
なんなんだよ、今の薄笑いは。
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