にしか見えない

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にしか見えない

警視庁捜査一課 特殊犯罪捜査班SIT(特別行動チーム) 「結城さん来ましたよ。 あれあれ、あの犬っぽい子、今日からウチに配属された新参です」 「ああ?」 「何でも水無月先輩が行きつけのバーで働いてたのを、『素人要員』てことで引っ張って来たらしいんですけどね、当の本人は彼と組む気はさらっさらないらしくて、 『こいつはSITの意識改革に必要な駄犬』 『誰でもいいから好きに使え』 とか何とか言って置いていったそうですよ」 変わり者で名を馳せる先輩刑事、水無月の口真似をしながら同僚の鴨川が耳打ちする。 「駄犬?」 結城が振り向くと、一課の片隅で事務方の人間に囲まれペコペコと揺れる小ぶりな麦わら帽が見えた。 「ま、捜査員の卵でないことは確かですね。だってほら」 言って鴨川はわらわらと駄犬(・・)を囲む事務方の一人を顎でしゃくった。 「へぇ〜きみ、汰士(たいし)君ていうの? 可愛いなぁ。 18歳でSIT入りなんて前代未聞だけど大丈夫?」 「み、苗字は中野(なかの)って言います。 この度水無月さんに脅さ(・・)、、、あ、いえ、誘われ(・・・)て、こちらでお世話になることになりました。 えっと、、、なんでも外部から素人戦力を入れる『テストケース』的な扱いだそうです。 ど、どうぞよろしくお願いします」 「その麦わら帽子は?」 「初日は庁周囲の草むしりから始めろって言われたものですから」 「そうか、そうか。ま、気楽にな。 突然のことで驚いたけど、確かに君みたいな子がいるだけで場が和みそうだし。 末長くよろしくね〜」 鴨川は座ったまま椅子の座面を後ろに下げて尻を突き出し、中野汰士(たいし)を囲む一団を眺めながら片方の手で頬杖をついて結城に寄った。 「SITの新参にはライバル心むき出しの奴らがあれですからね。 まぁ駄犬でもペット、しかも仔犬だと思えば可愛いもんですよ。 これからの時代は俺ら殺伐とした環境にいる者にこそ、ああいう存在が必要かも知れません」 鴨川は帽子の下で揺れる笑顔を見て目を細める。 その鴨川よりもまじまじと汰士(たいし)の頭を眺め、結城は腕を組んで不思議そうに首を傾げた。 「鴨川」 「はい?」 「あいつ仔犬っていうよりさ、、、。 別の何かに見えね?」 「別の、何かですか?  、、、いや、俺には仔犬そのものって感じですけど」 「花だ。花にしか見えない」 鴨川はいやに真面目な顔を向ける結城に肩で笑った。 が、人差し指を鼻頭にあて、口元を隠した結城の深刻な表情は、どんな重大事件に於いても見たことがなく、貴重といえば貴重である。 同僚とはいえ特殊犯罪捜査班きってのエース、他人には一切関心を持たない結城が示した珍しい反応に、 『ここは自分も真面目に返しておくべきだろう』と思った。 「じゃあ、夏と麦わら帽子だけに 『ひまわり』、ってとこですかね?」 「違うな」 「とすると?」 「『揺れた』」 「『揺れた』?」 「『マリーゴールド』、とか」 「、、、は?」
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