800年の空白

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必要な反物質の量は少量で良かったため、エージェント各員は、それぞれ別の航路でブラックホール近くへと旅をした。誰かひとりでも辿り着いて、反物質を回収して帰ってこれればそれでよいのである。裏を返せば、エージェントは使い捨てのコマでしかないということであるが。 帰還の予定期間になっても、誰一人地球に帰ってこなかったということは、皆旅の途中で力尽きてしまったのだろう。いくらコールドスリープとは言え、ワームホールに入らなければ800年の月日に人体は耐えられないし、何より燃料が尽きてしまう。 地球に、いや、この宇宙に生き残っているのは僕1人になってしまった。この事実に気が付いたとき、これ以上ない絶望に打ちひしがれた。この日は飲料すら喉を通らず、無理やり食べた携帯食料ももどしてしまった。何をする気力も起きない虚無感に数日間は苛まされた。 一刻も早く地球のエネルギー問題に立ち向かわねばならないのに、ポッドに残ったエネルギーに縋り、自堕落な生活を送った。
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