其の二「あの病院」

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其の二「あの病院」

ちょっと、みんな聞いてー。 僕の町には昔から病院がある。昔からあるからそれなりに古い建物で、近々移転するかもって噂もある。そんな病院。 何回もお世話になった病院。クスリと死の臭いが漂う、好きでも嫌いでもない、そんな病院。ほら、どこにでもあるでしょ? どこにでもある、自分の町にある病院。 ふわぁ、眠いな。 僕、こんなだからそこに行く機会が多かったんだ。だからさ、イロンナ人と会ったこともあるよ。 車椅子の人。 カタアシガナイ。 頭を包帯でぐるぐる巻き。 サケビダス。 どれか指がない。 ネムレナイ。 イロンナ人と会ったことがあるんだよ。 アア、タノシカッタナァ。 病院っていう場所は命が産まれる場所。だけど命が終わる場所。 そんな場所には、やっぱり色んな話があるんだろうね。病院で働く人は生きていないといないんだから。 僕の同級生にこんな子がいるんだ。ホラー動画を観るのが好きな子。 これはね、そんな彼女が友人と一緒に遇ってしまった病院にまつわる話。 「好き」という執着につきまとわれる話。 『ちょっと、みんな聞いてー。 私にはね、とっても大好きで素敵な親友がいるの。ちょっと変わってるかもしれないけど、そこも含めて大切な親友。 さてさて、これはそんな親友とのある体験談ですな。 ある日、あるホラー動画を観た。 山田さんという人が廃病院に行き、残されていないはずの電話が残っていて、それが急に鳴り出す。止まったけど、山田さんは電話をかけ直す。「移動しました」という案内が入る。そりゃそうだよねー、で終わると思ったら目の前のガラスにいないはずの女性が写る。 というもの。 私と友人はその廃病院に行ってみた。 友人っていうのは、最初に言った親友のこと。親友親友って軽く言ってると、何となくその価値も下がりそうな気がするから、友人って言うね。 その動画の病院が本当にそこなのかは断言できなかったけれど、地元でも同じような噂は聞いていた。 ただ、私の聞いていた噂はもう少し詳しかった。 ある看護婦と医師が付き合っていた。 彼女は嫉妬深い性格で、医師は見目が良かったため頻繁に他の看護婦と噂になった。 遂には彼女は彼と心中しようとした。 という話だった。 実際に心中事件はあって、それがどうなったのかは知らない。 止めておけばいいものを、私と友人は好奇心に負けて廃病院へ向かった。 まだ病院がやっていた頃には、何度も利用したこともあるその病院。そんな場所に夜中忍び込むなんて… なんてドキドキワクワクするの! 私たちはホラーや絶叫系等のスリルがあるものが好きという共通の趣味を持っていた。 一緒にDVDを借り漁り、互いの部屋に泊まって、朝方まで興奮と震えが止まないまま手を繋いでテレビに釘付けになることなど数えきれないほど経験した。 私たちは、とても仲のよい親友だった。 出会いなんて覚えていないけれど。何でも話せる互いに唯一の人。 それが、私たちの共通の認識だった。 そんな私たちが近場に「おもしろそう」な穴場があると知った。これは行くしかない。 時刻はもう既に夜十時を過ぎていた。辺りはもう真っ暗だったけど、病院が近いということ、そしてふたり一緒だったことが背中を押してすぐさま向かうことにした。』 どういう動画だったっけ? 僕も観たことがある、気がするな。この病院、よく知ってる。そう思いながら観てた気がする。 あ、あった。この動画だ。 ▶️『毎度、ご利用ありがとうございまぁす。 ホラー動画を探し隊、山田でぇっす! えー、今日は動画を紹介じゃなくって (画面が少し上下に揺れている) (暗い中、道を歩いている) (足音と虫の鳴き声だけが聞こえる) 自分たちで動画を作ろうってことになりました! いぇーーーい!パフパフ!! ということでぇ さくさく進めていきましょう! 第一回目はこの山田がお送りする「病院」! (→ここまでオープニング) (ばばーーーん!) (効果音と共に字幕が現れる) 「以前ここには病院があった。別に事件があったということではないが、他にいい感じの場所が見つかった為移動することに。 機材やら何やらはもちろん全て運び出され新しい病院へ。古い方にはもう何も残されていない、はずである。」 そう。何も残っていないはずなんですよ。 でもね。新しい病院での営業が始まってから、変な噂が流れ出したんですよ。 (後ろに真っ暗な病院が。電気はひとつも着いていない) 古い方の病院のとある部屋には、まだ電話が残っている。ってね。 はーい、失礼しまーっす。 (がちゃ) (病院の入り口を開けて入っていく) (画面下に許可は得ていますの文字が) (懐中電灯の灯りだけで病院の廊下を進んでいく) (カツンカツンと靴の音だけが響いている) でぇ、その電話が残っているという部屋がこちらです。 (懐中電灯の灯りに浮かび上がった扉) (プレートには編集でモザイクがかかっている) おかしいですよねぇ、電話だけ残っているなんて。 で、噂には続きがあります。 その部屋に入ると電話がなるんだと… んなバカな… というわけで… いってみよーう! (ぎぃ) (鈍い音と共に扉が開かれる) (真っ暗な部屋) (物は何もない) (机と椅子が残っている) (懐中電灯で部屋をぐるりと一周照らす) (一瞬電話が写るがスルー) ほらー。やっぱり何もな… ???!!! (電話を二度見) あったー! ありやがったーーー! まさかここで鳴るなんてこと… (電話が鳴り出す) 鳴ったー! 電気とか来てないはずなのに 鳴ったーーー! (電話のコードをアップにする) (コンセントは刺さっていない) (コードは途中で切れている) そんなばなな!? (字幕で死語(笑)と出る) やばい… ここは出るべきか、否か… ここは… (字幕で →出る 出ない と出る) 俺は、出ない!! (しばらくして電話が鳴り止む) セーフ! セーフ!! 今の出たら絶対ヤバイやつだった! (額の汗を大袈裟に拭きながら) ふいーーー…んんん? (電話が置かれている机の上に万年筆とメモ書きが) (近づいてアップに) (「御用の方はこちらへおかけください」) かけよっか。 (ボタンを押して電話をかける) どーせかかんないってー (3コール目で繋がる) ?!?! もっもすもす?! (字幕で噛んだ(笑)と出る) 「お電話ありがとうございます。 こちら○○病院、受付でございます。 当病院は移動しました。 繰り返します。 当病院は移動しました。」 (女性の声で案内が入る) ありゃ? 移動したって案内じゃんか。 しょーがねーなー。 これで動画はおわ (目の前に大きなガラス窓) (懐中電灯を着けているためガラスに自分の姿が写る) (電話をかけている男(自分)) (その後ろに写る 看護婦の姿 自分以外いるはずない。 いるはずないのだが、窓にははっきりとナース服の女性の姿が写る。 その女性も受話器を手に持っている。 今、俺が聞いている案内をしているのは、あの女だ。 俺、この部屋に一人のはず。 窓に写っている女は…?) 窓に写る女と目が合う。 女はにやりと笑った。 真っ赤な口紅に塗られた唇が目をひいた。 う し ろ に い る よ 女の口がゆっくり動く。 俺の うしろ う し ろ (ぞくっ) ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!! (大声をあげて逃げ出す) (画面に大きく「しばらくお待ちください」と出ている) (→ここからエンディング) というわけで、山田は無事に帰還しました! いぇーーーい! 怖かった! 俺が! 怖かった! 廃病院に電話が残ってても! もしその電話が鳴っても! みなさん、無視してください! ましてや、かけ直しちゃいけません! 山田お兄さんとの約束だぞ☆ では、次回の「ホラー動画を探し隊」を楽しみにしてください! チャンネル登録よろ! そいえば、かかってきた電話にすぐ出てたら別ルートに? に、二度目は行かないんだからね!!』⏹️ これこれ。この動画がきっかけだったんだ。この「山田」さん、今どうしてるのかな。 で、僕の聞いた話でその病院、もう廃病院か、そこに行ったのは同級生とその友人。ほんと、好きな人っているんだねぇ。 『病院に着くと外も中も真っ暗だった。 他にもそこへ行った人がいるのだろう、入り口の鍵は壊れ門は風にガタガタと揺れていた。 私たちは懐中電灯の光を頼りに「キャー、こわーい!」などとふざけながら動画が撮影されたであろう部屋へ向かった。 そして、その部屋へ着いた。 動画と同じように、部屋の中には電話があった。 私たちは自然に手を握りあっていた。 「ここ、よね?」 「うん、電話だけあるし、多分そうよ」 心臓がバクバクいっていた。 私の手が、ぎゅっと強く握られた。 私も強く握り返した。 そのとき。 電話が鳴り出した。 動画では、鳴った電話は取られなかった。 かけ直していたんだ。 じゃあ、私は。 「私、出るよ」 「え」 友人の手を引っ張って、空いている方の手を電話に伸ばす。 「やめなって! 動画見たでしょ?!」 それでも、私は… 「男は度胸! 女も度胸!」 がちゃ 「も、もすもす?」 電話をとった私の第一声は噛んだ。 あの動画のように。 「―」 「も、もしもし?」 「―」 「切りまーす」 がちゃ 電話の先は無音だった。本当になんにも聞こえなかった。 変な声や音が聞こえるよりも遥かにいいと思い、私はそのまま受話器を置いた。 置いた瞬間、するりと手に誰かが触れた気がしたが、気のせいだと思い込むことにした。 私は友人を見て 「ナニモキコエナカッタヨ。カエロー」 片言で言った。 内心、ものすごくビビっていたのだ。 「はは、ほらね」 友人も苦笑いをしながら返事をした。 そして、私たちは何事もなく帰路についたのである。 このとき、私は気づかなければいけなかった。 友人の手に、電話が置かれていた机の上に乗っていた万年筆が握られていたことに。』 何にもなかったって。 よかったね。 それで終わる話じゃなかったよ。
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