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突然の告白に驚き、今まで騙されていたことに憤り、秋月の頭の中は大忙しだ。そこへたたみかけるように再度のお付き合い要請。イエスと答える要素がどこにあるというのか。馬鹿にするのもたいがいにしろ、と怒鳴りつけてやりたいぐらいだが、何せ客商売。あることないこと流されても困る。
「……お気持ちは大変有り難いのですが……」
奥歯を噛みしめながら、精一杯丁重に断ろうとした。したはずだ。
「もしかして、断ろうとしている流れです?」
「……申し訳ありませんが」
「え? 断る要素がどこにあるんですか?」
「は?」
あまりの噛み合わなさに、ついに本音が口から出てしまった。
「だって、秋月さん、僕のこと知らないでしょ? 知らないのにどうして断るんですか?」
勤務中で無ければ、客と従業員という関係で知り合っていなければ。こんなに苛立ちを抑える必要もなかったのに。
「とりあえずお試しからでも、付き合ってください」
「お断りします。だいたいそもそも男同士ですよ?」
「秋月さん、男が好きでしょ? 匂いでわかるんですよ」
そう言ってくんくんと鼻を近づけてくるものだから、秋月は上半身を大きくのけぞらせた。
「ね! とりあえず二週間ぐらい試してみて」
新郎、役だった男はなおも上半身を乗り出して迫る。
「シャンプーかサプリかなんかみたいに言うな……」
ついに秋月は頭を抱えてしまった。強く出ることが出来ないのは、仕事云々のせいだけではなかった。
元新郎のルックスがとても、好みなのだ。尻尾を振って愛想を振りまくようななつこい童顔と、長身で逞しい体つきのギャップも、もろにタイプである。
長らくフリーだし、見た目好みだし、なんかもうしつこいし、話終わらなそうだし……
「……二週間試用期間ということで」
ため息交じりにしぶしぶ答えれば、椅子から浮きそうなほど飛び上がって喜ぶ元新郎。
「やったあ! 次の結婚式は僕らのですね!」
「二週間と! 申しましたが!!」
【おわり】
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