助けて

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助けて

「さいあく。」 呟いてから機能をしていない左耳に手で蓋をした。 姉がいなくなってから急に聞こえなくなった。 …僕にとって命のようなものだったのに。 音を頼りにして造り上げてきた世界が崩壊の一途をたどっていく感覚が包み込んだ。 …ため息もつきたくなるよ。 僕はあれから皆に会わないように生活しているからなんとかなっているだけで。 …こんなこと考えてても落ち込むだけだ。 僕は椅子を戻してから机の上に置いてある企画書をみる。 「はぁぁぁ…、おしごと。」 ため息を深くついてからパソコンを起動させた。 それから何時間たったのかもわからなかったが、 水を求めてリビングに出ると朝日が出ていた。 また、寝ずに次の朝が来てしまった。 僕はスマホの微かな音を聞き取る。 神楽さんからのメールがたまっていた。 内容はやっぱり、心配ですメール。 ありがたいような、ありがたくないような。 「同情…かな。」 呟いて僕は立ち上がる…つもりだった。 足に力がはいらずに床に倒れた。 もう一度立ち上がろうとするけど無理だった。 かろうじて歌詞が出来上がっていたのが幸いだろうか。 倒れても大丈夫だろう。仕事の狂いはない。 でも、事務所に顔を出せと言われていたような。 僕はめったに出さない意地で歌詞のデータをコピーしてから部屋を出た。 今、彼らに会っても隠せるきがしない。 …自分でもわかっている。 もう、事務所まであと一階というところで 楽しそうな声がした。 たしか、今日のオフは。ぼんやりとしながら記憶を探る。 海さんと隼人さんかな。 「バレるかも…なんて。」 僕はしゃがみこんだ。
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