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第6話 「――おいで、たいち」
ノイのかたわらで、タイチは夏の庭を夢みる。
青い花が咲き、ぶらんこには不思議な模様のカエルがいる。
そしてタイチはこう呼ぶのだ。
『――おいで、ノイ』
おいで。僕の小さな恋人。
「……ノイ」
夢の中でタイチがそうつぶやいたとき、ベッドの上で、チチッと光るものがあった。
眠りこんでいるタイチはなにも気づかず、もう一度つぶやいた。
「――おいで、ノイ。僕のノイ」
タイチの声に合わせて、ゆっくりと輝くものがアンドロイドの身体の上をおおっていく。
「――ノイ、ノイ、ノイ」
ちか、ちか、ちか。
やがて――朝の魔法が、タイチの恋人を連れてくる。
ノイの身体に熱が戻り、愛情が戻り、タイチの恋人がもどってきた。
切れ長の目を開いたノイは、かたわらのタイチを見てほほ笑む。
ねえ、タイチ。
朝になれば――。
ふたりでカエルの模様をながめよう。
青い花の咲く庭で、あたしがこう言うの。
『おいで、タイチ。ふたりで生きていこう』って――。
——終——
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