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第5話 「まゆに、目に、耳に、首すじに――」
タイチのベッドでは、エドガワ博士の傑作セクサロイドが、静かに目を閉じていた。
ベッドの横には、くしゃくしゃのシャツとデニムを着たタイチが座り込んでいる。
ノイの呼吸は、ない。
タイチは、長い指でそっとノイの頬にふれた。
「僕が悪かったんだ。ノイに、求めちゃいけないものまで、求めたから。ノイは僕のために、行っちゃいけないところまで行ってくれたんだ」
エドガ博士は、いたましげに親友を見た。
「いや、タイチ。お前のせいじゃない。
そもそも、すべてのアンドロイドには行動規範がインプットされている。そいつは何があっても削除できないし、上書きもできないオリジンデータだ。アンドロイド自身がコントロールできるものじゃないんだ。
ただの失敗作だったんだ――ノイは」
タイチはつぶやいた。
「失敗作なんかじゃない。ノイは、僕を愛してくれたんだ。そして壊れてしまった。
エドガ。
僕には、ノイに壊れるほど愛してもらったのが幸せなのか、あのまま我慢し続けていればよかったのか。わからないよ」
タイチはなんどもなんどもノイの顔をなぞり続けた。
「――ねえ。このまま、ノイを置いておけるかな」
エドガワ博士は友人の憔悴しきった顔を見てから、申しわけなさそうに、首をふった。
「ムリだ。
人工有機体は脳内のAI以外は人間と同じだ。遺体をいつまでも置いておけないように、アンドロイドも処理しなきゃいけない」
エドガワ博士はそっと、親友の肩に手を置いた。
「今夜だけ、おいていく。明日の朝ひきとりにくるよ」
タイチは何も言わず、ずっとノイの顔を撫で続けていた。
ノイの顔は小さい。
ふっくらしていて、顎が少しとがっていて、唇は柔らかい。
まぶたは薄く、瞳は瑠璃唐草のように青い。
タイチはノイの顔のパーツを全部、順番になぞっていった。
まゆに、目に、鼻に、頬に、あごに。
耳に。首すじに。鎖骨に。
そして唇に――。
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