第6話 「――おいで、たいち」

1/1

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

第6話 「――おいで、たいち」

 ノイのかたわらで、タイチは夏の庭を夢みる。  青い花が咲き、ぶらんこには不思議な模様のカエルがいる。  そしてタイチはこう呼ぶのだ。 『――おいで、ノイ』  おいで。僕の小さな恋人。 「……ノイ」  夢の中でタイチがそうつぶやいたとき、ベッドの上で、チチッと光るものがあった。  眠りこんでいるタイチはなにも気づかず、もう一度つぶやいた。 「――おいで、ノイ。僕のノイ」  タイチの声に合わせて、ゆっくりと輝くものがアンドロイドの身体の上をおおっていく。 「――ノイ、ノイ、ノイ」  ちか、ちか、ちか。  やがて――朝の魔法が、タイチの恋人を連れてくる。  ノイの身体に熱が戻り、愛情が戻り、タイチの恋人がもどってきた。  切れ長の目を開いたノイは、かたわらのタイチを見てほほ笑む。    ねえ、タイチ。  朝になれば――。  ふたりでカエルの模様をながめよう。  青い花の咲く庭で、あたしがこう言うの。 『おいで、タイチ。ふたりで生きていこう』って――。        ——終——
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加