Protocol of Spectral

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 若かりし頃に国体の水泳代表だったバッタは、どうしても長期間デスクワークで縛られるからこそ、フィジカルの強靭さが重要だと考えていた。だから寝る間を惜しんでジム通いを続け、憧れの肉体を持つ褐色のダンディたちの誘惑に身を任せ菊門の裂けるカーニバルな千夜一夜の饗宴に酔いしれた。茫然自失な粘液の交流に後ろめたさを感じながらも、果てなる筋肉の悲鳴を楽しむ被虐性愛に溺れている超越人だった。  けれどバッタの心配を余所に、己の健康など日進月歩の為ならサクリファイス上等な勤勉な一般プログラマーたちの多くが、独特な身体的形状変化の病理に悩まされていた。  モニターを凝視するように伸びた首の頸板状筋は四十五度の位置で固着し、キーボードを叩く為の指の速度の進化に特化する為に、肘を軽く曲げて伸ばした前腕は上下の可動域が著しく制限されていた。  長年と農作業を続けてきた田舎の老婆が腰を曲げたままの奇特な姿で晩年を過ごすように、多くのプログラマーたちがダーウィンのアップデート版な進化論を証明していた。
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