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『そんなこと、聞いてないわよ!いつなの?忙しいって、事務仕事とかなら部下に任せれば良いじゃない!』
『うるせェな!俺の仕事には口出さないって話だったろ!』
『…勝手にすれば。おかず、温めて食べて。食べたら食器つけといてね。』
『うるせェな!』
妻は不貞腐れて風呂場へと向かっていった。この時の会話をきっかけに、この夫婦の関係はどんどん悪化していくことになる。それから2週間程経ってから、妻は掃除中に夫のベットに彼の手帳を発見したのである。
(あら?いつも持ってっている筈なのに…)
妻は不審に思い、試しにその手帳を開いてみた。すると、自分の知らない名前――それも女性のものが何か所も――が書かれているのに気づいた。これは探る必要がある――そう考え、彼女は自身の携帯で写真を撮り、手帳を元の場所へ戻しておいた。
それからの彼女の行動は早かった。手帳を見つけた翌日から、昼以降に夫の動向を確認すべく、自ら車を運転し、夫の職場付近に通うようになった。まず驚いたのは、毎朝自分が作っている弁当を食べずに部下らしき女性と外食に出かけていることであった。その日、SNSの裏アカウントで「あいつは私を置いて、他の女と食事に行っていた。私の弁当があるのに。」と書き込んだ。このような夫に対する書き込みは、古市たちが来た日まで毎日行われ、夫への不満が記されていた。そのような日々の繰り返しの中で、妻はあることに気付いたのだ。手帳に書かれていた日付は全て、帰りが遅い。それも、例の女と会っているらしい。ある晩夕方に二人の尾行をしたところ、ラブホテルへと入っていった。
(アイツ、とんでもない最低野郎だわ…証拠、残さないと)
妻は夫の浮気の証拠を撮影してから、荒れた運転で車を走らせた。その次の日、帰った夫に写真を突き付けて、浮気のことを責め立てた。その時に夫が放った言葉は、「ニート風情が言える義理ねェだろ。女の癖に、男に楯突くなよ」という、時代遅れともいえるような言葉であった。その時、妻は腹のうちに夫への殺意を抱えるようになった。そしてその翌日、妻は帰って来た夫をアパート下で出迎えていた。夫が妻に気付くと、抱きしめるふりをしてその腹へ思い切り突き刺した。しっかりと力を込めてから包丁を引き抜いて、すぐに血を覆うようにキッチンペーパーで包み、そのまま部屋へと戻っていった。――これが、古市の脳内で繋ぎ合わせられた、事件の真相である。
後日、本部での業務中に、あの妻の有罪判決が出たことを知らせる通書が届いた。
「おー、やっぱ有罪か。」
「凄いなあ古市!ほぼオマエ一人でやったようなもんだぞ!」
「そんなことないですよ。皆さんが居たからですよ。僕の能力を受け入れて下さったから、存分に使えたんです…本当に、ありがとうございます。」
「これからも、その調子で頼む。もう“落ちこぼれのγ”なんて言わせないようにな。」
「そうよ。」
「坂本さんもナイスアシストです!」
「…どうも。オレは、コイツが見たことの証拠を探してただけなんで…」
二人は謙遜しているが、お互い居なければ今回のようにうまくことは進まなかった。それはγ班も同じである。佐倉は二人の頭に手を置き、高らかに言った。
「色々あったが、皆ご苦労様。新人二人の活躍もあって、短期間で解決することができた。これからも色んな事件を担当することになるが、この経験を生かして取り組んでいこう。――γ班、ファイヤーッ!」
「「ファイヤーッ!」」
「γー、うるせーぞー!」
他の班から怒号が飛ぶが、皆で笑い飛ばしてやった。このメンバーなら、自分のありのままを受け入れてくれる――古市は改めてそう感じた。
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