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Episode.1
4月。天気は快晴。ここ新東京の治安機構・社会治安維持局(通称“社安”)でも、新入局員たちの入局式が行われた。そして、それぞれが割り振られた担当部署へと移動し、上司や先輩に挨拶をする。
「あー、やっぱ部署違ェか。暫くおさらばか?」
「いやいや、食堂やらで会うでしょ。本部なんだから。」
「だよな。マジでバラバラだけど。俺は三課でコイツは二課。」
「おいコイツて!…でもまあ、流石優等生だよな。古市は一課だろ?」
「推薦状貰ってたし、向こうから声掛かってたんだっけ?」
新入局員・古市悟史は、中等学校時代からの同級生らと話していた。古市は訓練校での成績も良かったので、お墨付きを貰っていたのだ。が、古市は首を横に振った。
「や、一課には僕からどうしてもって言ってたんだ。まさか通るとは思わなかったけど。」
「まあ一課って花形みてーな所あるしな。」
「けど凶悪事件とかあんだろ?授業でもキツかったのに、ああいうの幾つもなんて…」
「確かに、ニュースとか見てるとキツイけどさ。――むしろ、待ってましたって感じだよ。」
古市は張り切ってそう答えた。目元には相変わらず濃い隈ができている。
「はは、オマエらしいな。昨日も、勉強やらで寝てねーんだろ?」
「まあね。20分くらいは寝たと思うんだけど…」
「「短っ!」」
友人たちから総ツッコミをくらう。再三言われていたのに、寝不足なのかと。古市は苦笑する。
そう話しているうちに時間が押してきていたため、古市は友人らと別れ一課の部屋へと向かう。一課は比較的人数が少ないと聞いている。荷物を抱えて廊下を歩いていると、眠気に襲われ目を瞑りそうになる。同時にふらついたため、左手で壁に触れ体を支える。と、古市の視界にブワッと映像が流れる。映像は、どうやら数分前のものらしく。
『あーあ、緊張で眠れなかったよー。』
『つーか一課の集合10時だろ?時間足んねーよなー。』
(10時?あと3分しかないじゃん…!)
古市は焦り速歩きをするが、酷い頭痛に襲われる。古市は、自らの力を恨んだ。
(此処は色んな課に繋がってるからな…能力の反動も大きいのかな。)
先程の力――それは古市の能力・“メモリアルシアター”である。古市は「目を閉じた状態で触れることで、ソレが持つ記憶を見る」能力者なのだ。持っている情報量が多いほど体へのダメージも大きい。故に、通行量の多い廊下は、古市には凶器となったのだ。古市は暫く歩いていると倒れそうになり、女性とぶつかってしまった。
「ちょっ…君、大丈夫?見ない顔だけど…」
「すみません…。僕今日からの新入局員で…」
(こんな時にぶつかって――あれ?)
古市がぶつかった相手は、彼の配属された一課の人らしかった。一課を出る様子が見えたのだ。既に何人か、新人らしき人たちが見えた。
「あの…一課の方ですか?僕、一課に配属されたんですけど…」
「うん、そうだけど…って一課!?もしかして、君が古市くん!?」
「はい…」
「丁度良かった!アタシは安藤、君の言う通り一課の人間よ。他の子たちはもう揃ってるわ。一緒に行きましょ。」
「はっ、はい!」
古市は安藤の後を追う形で、集合場所へと向かった。古市を気遣ってか、ゆっくりめに歩いてくれている。古市は申し訳無さとありがたさを感じながら、歩いていた。
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