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「あっ、無い…安藤さんにお借りしていた眼鏡が…無いです…!」
「え⁉」
「丁度良い!古市、こういうのって分かるか?」
「…多分。雪野さん、最後に見たのはいつですか?その時身に着けていたものとかありますか?」
「最後は…昨日です。眼鏡は赤いフレームなんです。丁度このジャケットは着ていましたが――」
「失礼します。」
古市は、紺色のジャケットの裾に触り始めた。発動条件は、「目を瞑って触れること」。古市は目を閉じて、流れる映像を辿り始める。昨日――過去24時間分の”記憶”をスクロールし、眼鏡の行方を追う。椅子に掛けていた時間も長く、定点カメラのような役割も果たしていたようだ。
(えーと、赤い眼鏡…ん、この黒い鞄ってもしかして…)
「雪野さん、一度内ポケットの物を全部出してみて下さい。」
「内ポケットですか…分かりました。」
雪野は、内ポケットからハンカチやらティッシュやらを取り出していく。すると、細く硬いモノに当たったように感じた。取り出してみると、確かに赤い眼鏡が入っていた。
「あ、これです!ありがとうございます!」
「衛生面…と言いたいところだが、どうやら本物らしいな。古市が鞄を漁っている様子はなかったし…」
「凄いわね、本当に見つかるなんて。そりゃ飛び級するわよ。」
「ま、古市がいるなら何とかなるだろ!」
「「ですね」」
「ええー…」
受け入れて貰えたのは嬉しいが、期待値が高まっただけだ。古市は底知れない不安を抱きつつ、車で深川へと移動した。目指すは“イースト”――新東京東部だ。
現場に着くと既に規制線が張られていて、緊張感が漂っていた。そりゃそうだ、こんな住宅街で人が殺されたのだから。聞き込み組と分かれると、佐倉は鑑識官と話していた。
「さて、今のうちに現場での捜査について説明するわね。まず、指紋が残らないよう手袋を付けること。室内なら、靴もカバーをつけてね。特に古市くんは持っておいた方が良いかもね。」
「はい。」
古市は白手袋を受け取るとすぐに身に着けた。…うん、素手よりこっちの方が落ち着く。新品なので、“記憶”を見る心配もなく落ち着いていられる。
「…あら?古市くん凄く顔色良いわね。これから捜査よ?」
「いえ…少しは軽減されそうだなと。僕布団とかパジャマとかでもダメで、寝不足になるくらいなんです。新品なのがまた嬉しくて。」
「能力者も大変なのねェ…」
「おーい!古市ー、オマエもこっち来いよー!」
「あ、アタシは坂本くんと先行ってるから。後で中来てね。」
「…はい。」
古市は佐倉のもとへと向かう。佐倉は嬉しそうにしていた。
「――で、コイツがその古市だ。期待の新人だぞー。」
「こらこら、困ってんじゃねェか。あ、俺は鑑識課の加賀美ってんだ。宜しくな。」
「宜しくお願いします。」
「よし、じゃあ俺らは一旦これで。安藤たちん所行くか。」
古市は加賀美と分かれ、アパートの外階段を昇っていく。その時、加賀美の傍に置かれていたある物に興味を持った。
被害者とその妻の住む部屋に入ると、既に安藤と坂本が妻に話を聞いているところだった。
「あ、二人共意外と早かったですね。」
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