Episode.1

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坂本はぶっきらぼうに返事して、先輩たちの元へと戻っていく。残った古市は、そっとキッチンの上に手を置いた。 (坂本の言う通り。シンクの下って、臭いしあまり貴重品を入れたりはしない筈…隣のスペースは、包丁とかボウルとかが入っているだろうけど――ッ、これは…) 古市は、能力を使って映画のフィルムのようなもの――彼の言う“記憶”に何かを見た。それは彼に興味をもたせ、周囲を色々と触るきっかけとなったのだった。古市は手あたり次第触りながら、手持無沙汰な坂本に言った。 「坂本ー、暇なら来てくれない?」 「何だー?」 「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど――」 「…んで?何か分かったん?」  あれから数日後。古市は、全員を集めた。上司や先輩から期待されているのもあり、すぐに人が集まって来た。 「事件の真相――掴めました。それと、旦那さんのことも。」 「そうなんですか?あの、主人は――」 「大丈夫です、それをこれから話します。まず、旦那さん――立石聡さんですが、帰りの遅い理由は何と聞いていましたか?」 「ええと…残業とか、会社の飲み会とか…それが、どうかしましたか?」 「それ、全部嘘です。」 「…え?」 奥方は、声を漏らした。彼女は、夫に嘘をつかれ続けていたのだ。「そう来たかー」「いつの間にそんな事を…」などと声が聞こえる。古市は話を続ける。 「その証拠が、こちらです。メモが一枚、スケジュール帳が1冊。あと写真です。」 「これは…」 「連絡先…それに、“さっちゃんとデート”って…」 「そうです――旦那さんは、浮気をしていたんです。」 「確認したら、ブログの写真も二人分のコップがある。完全にクロっスよ。」 「なっ、坂本オマエいつの間に…?」 「昔プログラミング習ってたんスよ。そんでハッキングも独学で。簡単でしたよ、アドレスでこういうのは全部特定できます。コイツ、パスワードも使い回してるし…」 「凄いなあ最近の若い子は…」 佐倉がそう呟くと、松永もうんうんと頷く。そんな様子を見て、古市は「これだけじゃありません」と言った。 「これらの証拠品――匂いを嗅いでみて下さい。」 「どれどれ――うわっ、金属臭い!」 「なんか水気もあるし…」 「そうです。これらは全て、シンク下のラックの下にありました。」 「なっ…!」 聞いていた全員が、衝撃を受けた。妻は少し苛立ちを見せ、古市に掴みかかるような勢いで言った。 「あの、私触らないでと――」 「すみません。ですが、考えてもみて下さい。シンク下は匂いが付きやすいので、洗剤など水回りのものを置く人が多いんです。オートミールとか米とか、そういう口にするものが置いてあるのは不自然です。」 「あー、言われてみれば…あんま食べ物は置かないわね。」
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