10人が本棚に入れています
本棚に追加
坂本はぶっきらぼうに返事して、先輩たちの元へと戻っていく。残った古市は、そっとキッチンの上に手を置いた。
(坂本の言う通り。シンクの下って、臭いしあまり貴重品を入れたりはしない筈…隣のスペースは、包丁とかボウルとかが入っているだろうけど――ッ、これは…)
古市は、能力を使って映画のフィルムのようなもの――彼の言う“記憶”に何かを見た。それは彼に興味をもたせ、周囲を色々と触るきっかけとなったのだった。古市は手あたり次第触りながら、手持無沙汰な坂本に言った。
「坂本ー、暇なら来てくれない?」
「何だー?」
「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど――」
「…んで?何か分かったん?」
あれから数日後。古市は、全員を集めた。上司や先輩から期待されているのもあり、すぐに人が集まって来た。
「事件の真相――掴めました。それと、旦那さんのことも。」
「そうなんですか?あの、主人は――」
「大丈夫です、それをこれから話します。まず、旦那さん――立石聡さんですが、帰りの遅い理由は何と聞いていましたか?」
「ええと…残業とか、会社の飲み会とか…それが、どうかしましたか?」
「それ、全部嘘です。」
「…え?」
奥方は、声を漏らした。彼女は、夫に嘘をつかれ続けていたのだ。「そう来たかー」「いつの間にそんな事を…」などと声が聞こえる。古市は話を続ける。
「その証拠が、こちらです。メモが一枚、スケジュール帳が1冊。あと写真です。」
「これは…」
「連絡先…それに、“さっちゃんとデート”って…」
「そうです――旦那さんは、浮気をしていたんです。」
「確認したら、ブログの写真も二人分のコップがある。完全にクロっスよ。」
「なっ、坂本オマエいつの間に…?」
「昔プログラミング習ってたんスよ。そんでハッキングも独学で。簡単でしたよ、アドレスでこういうのは全部特定できます。コイツ、パスワードも使い回してるし…」
「凄いなあ最近の若い子は…」
佐倉がそう呟くと、松永もうんうんと頷く。そんな様子を見て、古市は「これだけじゃありません」と言った。
「これらの証拠品――匂いを嗅いでみて下さい。」
「どれどれ――うわっ、金属臭い!」
「なんか水気もあるし…」
「そうです。これらは全て、シンク下のラックの下にありました。」
「なっ…!」
聞いていた全員が、衝撃を受けた。妻は少し苛立ちを見せ、古市に掴みかかるような勢いで言った。
「あの、私触らないでと――」
「すみません。ですが、考えてもみて下さい。シンク下は匂いが付きやすいので、洗剤など水回りのものを置く人が多いんです。オートミールとか米とか、そういう口にするものが置いてあるのは不自然です。」
「あー、言われてみれば…あんま食べ物は置かないわね。」
最初のコメントを投稿しよう!