新しく動き出す

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「恵美、もう出発しないと、式に遅れるぞ。」 「…うん。もう少しでメイク終わるから待っていて、圭吾!」 今日は健斗の結婚式。 式場は海の見える素敵な教会だった。 式場の入り口には、すでに準備ができた健斗が出迎えをしていた。 「高山君、おめでとう。」 「龍崎部長、今日はお忙しいところありがとうございます。」 健斗が私の方を向いた… 眩しい爽やかな微笑み… 「た…高山さん、おめでとうございます。お幸せに…」 「鈴木さん、ありがとうございます。」 私は無意識に龍崎さんの袖を握っていた。 「恵美…大丈夫か…?」 「…うん。心配しないで。」 本当は心臓がチクチクしていた。 健斗は幸せそうに見え、それは私の救いでもあった。 おめでとう…健斗。 幸せになってね。 私も前に進まなくちゃ。 心の中で何度も囁いていた。 もうすぐ式が始まる。 龍崎さんは会社の人達に囲まれ話をしている。 私は教会の庭で、海を見ていた。 キラキラと波が輝いている。 太陽が気持ち良い。 その時! 後ろから誰かに手を引かれたのだ。 驚いて振り向くと、そこには健斗の姿があった。 「…高山さん?」 健斗は人差し指をを口に当て、庭の木陰に私を引き寄せ。… 驚く私を、健斗は力強く抱き締める。 「た…高山…さん…どうして!」 突然、健斗に抱きしめられ、頭が真っ白になる! 「鈴木さん…いいや…恵美!」 「…っえ!!」 「俺は、思い出してはならないことを…ほんの少し思い出してしまったんだ。」 「…何を言っているの?」 健斗の言葉に頭が真っ白になった。 「…一緒に…絵画展行った…招待チケットに、恵美の名前があったんだ。」 「…け…健斗」 「絶対に思い出してはならない…でも…俺は…今でも…」 「…高山さん…それ以上は…言わないでください…今日は、あなたの結婚式ですよね。」 突然、言葉が遮られた。 健斗の唇が私の言葉を止めたのだ。 私は健斗の胸を力いっぱい押して、唇を離した。 「…高山さん…お幸せに…可愛い新婦が待ってますよ。」 私は自分の感情を押し殺し、微笑んだ。 私に出来ることは、微笑むことくらいしかなかった。 「ごめん。でも、最後に恵美に伝えられて…良かったよ。…さようなら、恵美。」 健斗はゆっくりと後ろを向き、歩き出した。 私はその背中を見送っていた。 健斗は二度と振り返ることはなかった。 涙は出さないよ…健斗。 …おめでとう。
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