お兄ちゃん

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お兄ちゃん

 僕の家にはお父さんとお母さんとお兄ちゃんがいます。  でもお父さんとお母さんの本当の子どもは僕だけだと、いなくなったおじいちゃんが言っていたことを覚えています。  僕はおじいちゃんが大好きで、いつもくっついていたけど、おじいちゃんは僕が4歳の時に遠いところにいってしまったとお父さんが言い、その時僕を抱きしめながらお母さんが泣いていました。  もう会えないんだよと言われて泣いて、駄々をこねる僕を宥めてくれていました。  その夜からお兄ちゃんが一緒に寝てくれました。 以来、いつも忙しくしているお父さんとお母さんの代わりに一緒にいてくれたおじいちゃんの代わりにお兄ちゃんがいてくれるようになりました。  それまでずっとおじいちゃんの後ろに隠れていたお兄ちゃんは幼稚園の送り迎えもご飯の時も、お風呂も寝る時も、遊ぶ時も病気の時もずっと一緒。  お父さんとお母さんはそんなお兄ちゃんに「ありがとう」と言って笑いかけていました。  お兄ちゃんは嬉しそうににっこりと笑っていたけど、少しづつ僕は不思議に思い始めていました。  だって、僕は小学生になって身体が大きくなり始めてお兄ちゃんを追い越してしまいそうだったから。  お兄ちゃんは全然大きくならない。  その謎が解けたのは僕が小学二年生の時、トイレに行きたくて目が覚めた夜遅くのことでした。  お父さんとお母さんがヒソヒソとリビングで話していました。 「そろそろだと思うんだ」 「そうね。あの子は?大丈夫でしょうか?」 「離れることになるけど、それも1年か2年のことだから」 「今が最適なのでしょうね」 「ああ、みんな今頃だそうだ」 「じゃあ、さっそく明日手続きをしてきます」 「頼むよ。お兄ちゃんの方には僕から話をしよう」 「あの子には?」 「出来れば一緒に……」  僕は何の話なのかよく分からなかったけど、よくない話なのは分かりました。  だって“離れる”という言葉と“お兄ちゃん”という言葉だけで想像がつくでしょ?  お父さんとお母さんのコソコソ話をこっそり聞いてしまうことにも、その内容にも僕は心臓がドキドキと大きく跳ねて怖くて堪らなくなりました。  早くベッドに戻ってお兄ちゃんと寝ていなければ、見つかったら怒られてしまう……そう思うと余計に足は震えたけれど、グッと力を込めて部屋の方へと体を向けました。  振り向いた薄暗い廊下にじっと動かない影がありました。
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