ひとつはふたつに分かたれた

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 文字通り血反吐を吐きながら、簡単に死ぬ事もできなくなった身で、鈴音は刀の使い方を覚え、狭魔を狩る方法を覚え、永く世を渡る処世術を覚えた。そして師匠が寿命で亡くなる際、『狭魔狩人』の名を受け継いだのだ。  当時日本に狭魔を認識する人間は殆どおらず、『狩人』の技を持つ者も、人の身では師匠の代が最後で、狭魔の素養を持って、容易(たやす)くあわいに入り込める力を帯びる鈴音しか、狭魔を狩る事はできなくなった。 (これは、私にしかできないこと)  初めて狭魔の首を落とした時、鈴音は強くそれを意識した。  人の理から外れて、常人なら狂っているだろう時を過ごし、そして令和の今も、どこかにいる、狭魔の王あずかと、その連れ合いになった揺音を探している。  二人を討つのは、自分しかいない。自分しかしてはいけない。古き業を、未来に残すべきではない。  まるであずかの紫を、ひとつから分かたれたふたつがそれぞれ受け負ったかのように、揺音の赤とは対極になった、青の瞳で空を見上げた時。 『同類』の感覚を受け取って、鈴音は目を細める。  昼と夜の狭間で、また奴らが人の暗い想いを喰らおうとしている。 「逃がさない」  鈴音は低く呟いて、刀を手に取り立ち上がると、少々時代遅れになった作りのセーラー服を翻して床を蹴り、しゃん、しゃん、しゃん、と銀色の鈴を鳴らして。 『狩人』の役目を果たしにゆくのであった。
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